2007年09月07日発行1001号

【1週間でつまずいた安倍改造内閣 転換できる「戦争と新自由主義」の道】

 1か月がかりで準備し「人心一新」をキャッチフレーズに登場した安倍改造内閣は、たった1週間で「賞味期限」が切れた。補助金不正受給で遠藤農水相が辞職。9月10日からの臨時国会は安倍改造内閣にとって早くも崖っぷちをあゆむ展開となる。戦争と新自由主義の道を転換させる展望が広がっている。

遠藤辞任は深刻な痛手

 松岡自殺、赤城辞任という過去の経緯から最も厳しく「身体検査」(カネをめぐる諸問題の調査)が行なわれたはずの農水相ポストで、たった1週間しか持たない人物が大臣に抜擢されていた。「身体検査」がざるだったというより、自民党にはほこりの出ない政治家など皆無であることの必然的な結果である。遠藤は、会計検査院による不正受給指摘を知っていた。にもかかわらず、しゃあしゃあと大臣に就任していた。大臣になればもっともっと利権にありつける。これが判断基準だからだ。グローバル資本の権益と自分自身の権力確保しか眼中にない閣僚たちとは、そもそも国民の利益や公正・信義を否定することで現在の地位を獲得した連中なのだ。

 遠藤辞任は、不適格大臣がまたひとり辞任したという意味以上に深刻な事態を引き寄せた。自民党が安倍改造内閣にかけた思惑が大きくはずれてきた。

 自民党が安倍改造内閣に期待した役割は、再び大敗北する可能性の高い衆院解散・総選挙をできるだけ先に延ばすことだった。安倍続投を自民党が容認した直接の理由は、参院選敗北をめぐる党内抗争が解散総選挙に結びつくことを恐れたからだ。閣僚に派閥の領袖やベテラン政治家を配置したのも、国民に評判の悪かった「お友達内閣」からの脱却を印象付け、内閣支持率をせめて政権が維持できる水準までに何とか引き上げようとの思惑。臨時国会運営でも、小沢民主党との全面的対決を避け、妥協と譲歩を重ねながら、権力を維持していく道筋をさぐり出していくことを狙っていた。

 遠藤スキャンダルはこの思惑を吹き飛ばした。自民党の本質的な姿である税金かすめとり・利権政治への疑惑が噴出、野党にも政府追及の格好の課題を自ら差し出した。さらに新たなスキャンダルが飛び出せば、参院では首相問責決議すら可決しかねない。安倍政権は、はやくも薄氷を踏む状況に追いやられた。

民意とかけ離れた新内閣

 世論にも多くのマスコミにも不評の安倍改造内閣に対して、そのスタート時にこぞって声援を贈っていたのが財界・グローバル資本の頭目たちだ。経済同友会・桜井代表幹事は「熟慮された人選だと思う。安定感と強い党内基盤を持つ内閣が発足したことを評価する」とほめあげ、「安倍総理のリーダーシップの下、政府・与党が一丸となって構造改革の推進に取り組まれることを期待する」とエール。日本経団連も「安倍総理・総裁には、改革の必要性に関して国民の理解を深め、重要政策課題の解決にリーダーシップを発揮してほしい」とし、民主党には「責任政党として、現実的で具体的な対応を望みたい」と牽制している。

 このあけすけな支持は、安倍が戦争と新自由主義改革の基本路線推進を明言しているからだ。事実、改造内閣の新閣僚も、新憲法制定、戦争国家づくり、新自由主義改革をめざす政治家ばかりだ。

 外相の町村は、小泉内閣時の在日米軍再編合意の当事者であり、教育基本法改悪の旗振り役。防衛相の高村は、周辺事態法制定の主導的役割を担った。与謝野官房長官と額賀財務相は、根っからの消費税増税論者だ。舛添厚労相は、05年の自民党新憲法草案の取りまとめ役で、社保庁解体・民営化推進論者。「地方対策」の増田総務相も、実は岩手県知事時代から県民負担増を進めてきた「地方分権改革(切り捨て)」推進委員会の委員長代理なのだ。

行きづまる新憲法路線

 しかし、参院選に示された国民の審判の根本にあるのは、小泉―安倍と続いてきた改憲・戦争・新自由主義改革路線に突きつけたノーの民意だ。基本路線の継続・強行は、いっそうの反発を招かざるを得ず、そう容易ではないことがこの間の動きにもかいま見える。

 安倍は確かに5月の国会で新憲法制定のための国民投票法を強行可決した。同法に基づき、臨時国会では憲法改正原案の審査や国会提出を行なう憲法審査会(衆参常設機関)が設置されたが、実際にその審査会をスタートさせる「審査会規定」が野党の反対で議決できなかった。朝日新聞の調査によれば改憲案発議に必要な3分の2を超えていた参院の改憲派議員の割合が71%から53%に減少した。「私の内閣で憲法改正を政治日程にあげる」と豪語した安倍の狙いは大きく崩れている。

 海外での自由な武力行使をもくろんだ「集団的自衛権行使の禁止」の政府解釈の変更をめざした動きにもブレーキがかかった。自民党の「集団的自衛権に関する特命委員会」(委員長中川昭一)は、安倍内閣の「有識者懇談会」に先行して解釈変更を提言する予定であったが、提言を棚上げする方針を固めた(8/26日経)。

 安倍がグローバル資本のために打ち出した「成長戦略」の要は、消費税を増税し、その財源で企業減税を行なうことだった。自民党税制調査会幹部は「野党が強く反対する法案を出しても仕方ない」として消費税増税予算を断念せざるを得ないと表明している。

 また、日本経団連が執拗に求めてきた、残業代ゼロを合法化するホワイトカラーエグゼンプション制や派遣労働者への正規雇用申し出義務解除は、国民の反発をおそれてめどが立たない状況だ。

 臨時国会最大の政治焦点となるテロ対策特措法の延長問題では、自衛隊の給油支援の多くの部分がイラク戦争にも使われていた事実が改めて暴露されている。これまで自衛隊の給油活動の実態はほとんど情報開示されてこなかった。その下でも、世論調査では特措法延長に反対する声が6割近くを占めている。国会審議でその事態が情報開示されれば反対世論はさらに増大するに違いない。運動を強めれば特措法失効・廃止へと追い込むことは可能であり、政府は失効の場合を想定した新法まで検討する始末だ。

国民・若者の怒りは拡大

 自民・公明の連立与党が衆参で圧倒的多数数を占めていた前国会での与党答弁は、国民を愚弄するものだった。野党の追及に対して「木で鼻をくくった」答弁に終始。ただ審議時間だけを積み重ねたことで強行採決。はては、審議すらないままに法案をごり押ししてきた。

 今回の遠藤農水相の事実上の更迭は、野党が臨時国会で農水相問責決議の提出を示唆したことが大きな契機となっている。臨時国会での紛糾で問題が拡大し、批判世論がさらに高まることを政府・自民党は恐れた。多くの国民は、参院選挙での与野党議席逆転がもたらした変化を実感している。新自由主義改革による犠牲を押し付けられた若い世代も、自分の一票で政治が変わるという意識が拡大している。20〜30代の世論調査(参院選後)でいま解散・総選挙があれば「必ず投票に行く」と答える若者は54%と過半数を超えている(8/7朝日)。

 参院で最大会派となった民主党も、その基本姿勢では改憲・民営化推進の政党だ。テロ特措法延長問題にしても、自衛隊派兵そのものに反対している訳ではない。だが、国会の外では、参院選で示された民意をどの政党が誠実に代弁し、行動するのか、広範な国民が注視している。

 自民新憲法制定、戦争と新自由主義改革で社会を崩壊に導く―この路線を転換させる展望が広がっている。

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