2007年09月14日発行1002号(2007年9月21日号)

イラク最新ルポIFC衛星放送サナテレビに希望を見た(13)

【(最終回)占領軍撤退と社会の再建 / IFCの前進で実現させよう】

 イラク占領について、米議会の会計検査院は「成果が上がっていない」との報告書を出した。ブッシュ大統領は「治安の改善が見られる」と強気の発言で応じているが、治安の悪化は誰の目にも明らかだ。しかしそれは、占領政策の稚拙さに原因があるのではない。人々が安心して暮らすには、一刻も早く占領軍が撤退することだ。IFC(イラク自由会議)がさらに大きく、強くなることだ。(豊田 護)


 「占領軍がいなくなっても大丈夫でしょうか」

 国内各地で行ったイラク報告会で、そんな質問を受けたことがある。占領軍がいなければ宗派間の激しい内戦になるのではないか、との心配からだ。市場での爆弾事件や一般市民の誘拐事件。凄惨な宗派間抗争に接し、何か強力な力で犯罪を抑え込む必要があると考える人は少なくない。

 マスコミ報道も“もっと洗練された占領政策が立てられ、米軍が誠実に仕事を行えば治安回復は可能”との前提に立っている。治安の悪化を引き起こしているのはテロ組織で、米軍は手を焼いているという構図だ。

 だが、それは大きな間違いだ。第一にイラク戦争こそ、一片の正当性もない犯罪行為であった。引き続く占領に「いい占領」も「悪い占領」もないのである。よく「占領政策の失敗」といわれるが、決してそうではない。どんなにうまく立ち回ろうが、侵略軍による「治安維持」は結局暴力に訴えることを前提としているからだ。

 「治安回復の成功例」としてブッシュ政権が取り上げるアンバル州。ラマディ、ファルージャの町がある州だ。地元の部族長の協力で、アル・カイダ系のテロ集団を追い出したと胸を張る。

 だが、ファルージャは、占領軍の度重なる無差別攻撃により、廃墟と化している。ほとんど生活が送れない状態になっている。それが「治安の回復」なのか。ラマディも同様だ。多くの住民が生活の場を追われ、罪のない住民が大量に殺されているのである。

 そもそも、占領軍の任務は占領支配の維持・強化にある。占領軍の「治安の改善」は、民衆が願う「治安の改善」とは全く違うものである。目の前で市民が虐殺されようが、誘拐されようが、占領軍にとってはどうでもよいことなのだ。

占領自体が犯罪

 サマラで起こったことだ。市民を虐殺した武装集団が米軍基地に逃げ込み、かくまわれたという。米軍自身、キルクークで労働者のデモに威圧行動を行っていたとき、デモとは全く無関係の車に発砲している。8歳の少女を撃ち殺す事件もあった。

 たとえ自らの行為と判明しても、米軍は「ソーリー」の一言だ。中には、部隊長の裁量で遺族に「慰謝料」が支払われることがある。05年ごろ、平均して2500ドル(約30万円)が相場だった。その合計額は今3200万ドルを超えているという。つまり、数千件から1万件もの「偶発事故」により、市民が殺されていることになる。実際は、この何十倍もの人々が占領軍によって殺されているのだ。

 英国の医学雑誌『ランセット』がイラク占領の犠牲者数を65万人と推計したのは、06年の7月だった。その後も犠牲者は増え続けている。ウェブサイト「公正な外交政策」(http://www.justforeignpolicy.org)では、ランセットの報告や「イラクボディカウント」の調査などをも合わせ、毎日更新している。占領による犠牲者数は9月初旬時点で103万人以上を数える。

 占領軍そのものが犯罪者なのである。このことは、IFCの安全部隊長であったアブデルフセイン・サダムの暗殺事件が端的に示している。占領の邪魔になる者は抹殺する。それが占領軍のいう「治安の改善」なのである。

作られた宗派対立

 民族・宗派の違いによる抗争はどうか。

 この抗争もまた、占領によってもたらされたものである。これまで、民族や宗派の違いを問題にする者はいなかった。占領支配を強化するために、イラクの社会を分断する必要がある。そこで、宗派や民族の違いが利用されたのだ。

 8月末、バグダッドの南西約95キロメートルにあるカルバラでおこったシーア派私兵同士の銃撃戦は、逆の証明といえる。イラクかいらい政権の中心をなすシーア派政党イスラム最高評議会の私兵バドル軍と、同じくシーア派勢力ながら政権を離脱したムクタダ・サドルの私兵マハディ軍が市街戦を展開した。まさに、占領下において、自らの縄張りを広げ、権益の分け前を少しでも増やそうとする勢力の抗争なのである。

 占領軍が撤退すれば、反米を口実とした爆弾事件は引き起こせない。権益をむき出しにした縄張り争いを繰り広げる集団は、民衆から総スカンを食らうことは間違いない。

IFCこそ希望

 占領軍を撤退させる力は、イラクの社会を再建する民衆の力でもある。「占領反対。宗派抗争やめろ。自由平等の社会を」を掲げるIFCがその中心的な役割を担っている。

 07年5月から6月にかけて行ったイラク取材で、あらためてIFCに期待する民衆の声がどの地域からも上がっていることを知った。

 同じクルド地域を取材した05年11月にはIFCの存在はほとんど知られていなかったことを思うと、IFCの前進はめざましい。それだけ「民族浄化」の恐怖がクルド地域にまで広がったのかもしれない。

 イラク北部・クルド地域はクルド民族主義政党の支配下にある。北部の中心的産油地であるキルクークの帰属をめぐり、アラブ人排斥の動きは今後ますます強まるだろう。「人間は人種や宗教に属しているのではない」とキルクークで内装業を営むアザド・マジードが言った。IFCの活動を伝えるサナテレビへの期待が語られた。スレイマニアでもアルビルでも、同じ声を聞いた。

 中部のサラハディーン州でIFCの活動を担うマジード・ハマダンは日々、占領軍や武装集団の襲撃にさらされている。サダム・フセインの生家がある地域だからテロ組織の根城だとして、無差別攻撃の対象なのだ。自宅に監禁状態にある住民はサナテレビ開局をお祭りのように祝った。

 南部地域は、イランからの支援を受けたシーア派勢力が支配している。宗教教義を振りかざし住民の生活を抑えこんでいるのは、石油資源の独占を狙ってのことだ。IFCバスラ支部は、石油の私物化を進める石油法に反対する大衆的な闘いの中心を担っている。

 IFC中央評議員で南部石油労組の執行委員でもあるアブ・ワッタンは「バスラで起こったことは、南部の諸都市どこでも起こりうる」と語った。IFCはナシリア、ディワニヤなどの主要都市に支部を広げている。

 今回の取材を通して確信したことがある。アブ・ワッタンの言葉を借りれば、“サラハディーンで起こることは中部の諸地域で起こりうる。キルクークやスレイマニアで起こることは北部地域のすべてで起こりうる”ということだ。「スンニでもシーアでもない。われわれは人間だ」―占領下で「民族浄化」の恐怖にあるイラク民衆にとって、IFCの掲げるスローガンこそ希望なのである。

 「サナテレビに希望を見た」人々は、イラク全土に広がっていくと確信できる。それはまた、全世界でイラク占領に反対する民衆の希望でもある。IFC、サナテレビを全力で支援しよう。(終)

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