2008年12月05日発行
1062号
【国民が反対する定額給付金ではなく 2兆円を雇用・社会保障の拡充へ 新自由主義路線の根本的転換を】
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麻生内閣が追加経済対策の目玉として掲げる総額2兆円にのぼる定額給付金の概要が決まった。しかし政策目的もはっきりしない給付金は国民からも「必要な
い」とそっぽを向かれている。いま必要なのは、新自由主義路線の根本的転換であり、財政構造や社会のあり方を変えることだ。
票目当ての定額給付金
定額給付金は、迷走した末に11月12日になってようやく概要が決まった。だが、支給額は1人当たり1万2千円(18歳以下と65歳以上は8千円加算)
と決まったものの、揺れ動いた所得制限については決めることができず、市町村の裁量に委ねることになった(所得制限を設ける場合は所得1800万円を下限
とする)。
景気対策にはならない
そもそも今回の定額給付金は、なんのために実施するのかという政策目的がはっきりしない。
麻生首相は、全世帯を対象とする定額給付金の支給を打ち出す一方で、景気回復を見定めた上で3年後をめどに消費税引き上げをお願いすると述べた
(10/30)。3年後に消費税が引き上げられるとなれば、一回限りの定額給付金を使い切ろうと考える人は減るに決まっている。しかも銀行口座への振り込
み方式というのだから、わざわざ引き出してまで使い切ろうとする人がどれだけいるだろうか。不況が深刻化する中で、とりあえず貯金してもしもの時の出費に
備えることになるのではないか。
実は金融危機の発信源である米国でも景気対策として1680億j(約16兆8千億円)が計上され、今年5月から国民1人当たり約6万円の小切手が配られ
た。だがアンケート調査によると、その7割は貯金と借金返済に使われたという。日本の場合も同じような結果に終わることは目に見えている。
生活困窮対策でもない
生活困窮世帯を対象にした「年越し資金」のようなものなら、それはそれで意味がある。「全世帯対象」の定額給付金はそういう性格のものでもない。「所得
1800万円」という線引きは「ばらまき批判」を気にして後から出てきたもので、しかも拘束力のない目安にすぎない。全国市長会会長の佐竹・秋田市長が
「法律などの裏付けなしに自治体が勝手に所得制限をやれ、といっても無理だ」と反発しているように、実際に所得制限が設けられる可能性は低いと見られる。
要するに今回の定額給付金は、解散・総選挙前に票を買うための「目玉」として打ち出したものの、ちっとも支持率が上がらないため解散を先送りしているうちに、内容を具体的に発表せざるを得なくなり右往左往したというのが実際の経過なのだ。
やるべき施策はほかにある
しかし日本の現状は、人気取りのために一回限りの給付金をばらまいているような状況ではない。
壊れるセーフティネット
小泉・安倍の新自由主義路線の下で、派遣労働の自由化によって働いても食べていけないワーキングプアが大量に生み出され、時間外手当なしに長時間労働を
強いられる「名ばかり店長・管理職」が増大するなど、働く者の権利と尊厳が根底から奪われてしまった。首切りが自由になり、各種の大企業優遇税制でグロー
バル企業が増収増益を重ねる一方で、民間労働者の賃金は減り続けた。
さまざまな国民負担が強化された。後期高齢者医療制度による保険料負担や入院費・介護施設利用料など自己負担強化によって老人・障害者世帯の困窮化が進
んでいる。医療改悪による患者負担増は年間で2兆円にのぼる。年金改悪で保険料は毎年0・7兆円ずつ増えていく。配偶者特別控除の廃止、所得税・住民税の
定率減税の廃止などで4兆円以上の増税となっている。
また医療費削減政策の下で、医者不足が進み、医療体制の崩壊が始まっている。社会的セーフティネットが壊れ、貧困層の増大と社会的格差の固定化が深刻化している。
2兆円をもっと有効に
本当に国民生活を支援するのなら、2兆円でもっと意味のある使い方ができる。
まずは、毎年2200億円ずつ機械的に削減されている社会保障費を回復することだ。もともと高齢者人口の増大につれて、社会保障費は毎年7500億円の
自然増が見込まれている。小泉内閣時代の03年にそのうち2200億円を機械的に削減することを決め、その後の内閣もそれを踏襲している。その結果、診療
報酬の削減、年金支給額切り下げ、生活保護費の老齢加算や母子加算の段階的廃止、老人ホームでの食事の全額自己負担などが強行されてきた。これが、医療体
制の崩壊の一因にもなっている。
舛添厚生労働相も、脳出血をおこした東京都内の妊婦が8病院に受け入れを断られて死亡した問題に関連して、「社会保障費の圧縮は限界。大きく方針転換すべきだ」(10/27)と述べざるを得なかった。
また06年に施行された障害者自立支援法によって障害者の負担も増えている。それまでの「応能負担」から「応益負担」へと変更された結果だ。ほとんどの
障害者は収入が低く施設や福祉サービスを利用しても自己負担はほとんどなかったのに、「応益負担」原則によって障害者の約9割に新たに負担が生じることに
なった。障害者インターナショナル日本会議が提案する「障害者総合福祉サービス法(仮称)」によれば、健常者にとって不要なのに障害があるために必要とな
るもの(介護、作業所の利用料など)は自己負担なし、健常者も負担するものは障害者も収入に応じて負担する(応能負担)が原則だ(11/22朝日)。これ
なども2兆円のほんの一部で元に戻すことができる。
国民の6割が「評価しない」
国民の多数も定額給付金のうさんくさい意図を見抜いており、その実施には否定的だ。
朝日新聞社が8〜9日に実施した電話世論調査によると、定額給付金について、「必要な政策だと思う」は26%にとどまり、「そうは思わない」が63%
だった。共同通信が同じ日に実施した電話世論調査でも、定額給付金を「評価しない」と答えた人が58・1%に上り、「評価する」の31・4%を上回った。
国民の6割は評価していないのだ。
また内閣支持率、不支持率は37%、41%(朝日)、40・9%、42・2%(共同通信)と両調査とも、不支持が支持を上回った。
新自由主義路線は世界的に行き詰まった。今回の危機から脱出するためには、路線を根本的に転換し、財政構造や社会のあり方を変えていかねばならない。す
なわち、派遣労働の禁止と最低賃金の引き上げを根幹とする労働市場への規制強化、最大の浪費である軍事費削減、法人税と個人所得税における累進課税の強
化、社会保障の充実、医療・福祉・介護分野での雇用拡大、教育予算の拡充・無償の奨学金制度の創設などが必要だ。
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