2009年03月06日発行 1074号

【1074号主張 ソマリア派兵が狙うもの 武力行使と資源争奪】

初めて海外での実戦へ

 「海賊対策」を口実にしたソマリア沖派兵の強行へ既成事実が積み重ねられている。

 与党プロジェクト・チームと防衛省が相次いで周辺国に調査団を派遣したのに続き、2月20日には広島・呉港沖で海上自衛隊と海上保安庁が海賊船との遭遇 を想定した共同訓練を行なった。この訓練に海自の特殊部隊「特別警備隊」が加わっている。メディアに公開された訓練だが、特別警備隊の果たす役割は公表さ れていない。

 特別警備隊は能登半島沖不審船事件(99年3月)を受けて01年に発足し、ヘリや高速ボートによる対象船舶強襲と武装解除・無力化、臨検(立ち入り検 査)を任務とする。「正当防衛・緊急避難」の域をはるかに超えた先制攻撃部隊=“殴り込み集団”の投入は、ソマリア派兵の狙いを端的に物語る。91年以来 の海外派兵の歴史の中でなし得なかった武力行使すなわち他国民の殺傷に自衛隊が踏み出す、ということである。

海賊新法提出を許すな

 領海内が前提の海上警備行動を1万キロ離れた海域に適用し、護衛艦(戦艦)を出動させる。こんな明白な脱法行為を先行させ、後から法律を作って合法化す る。これをクーデター的手口と呼ばずに何と呼ぶのか。弱体化した政府を尻目に軍部が暴走を重ねた戦前の過ちが、政権維持すらおぼつかない麻生内閣の下で繰 り返されようとしている。

 無法を合法にするその海賊対策新法の概要が明らかになった。@武器使用は「正当防衛・緊急避難」だけでなく相手が攻撃してくる以前でも船体射撃を認めた 海上保安庁法20条を領海外・自衛隊にも適用A保護対象は海上警備行動では日本関係の船に限るが、外国船にも拡大―などだ。

 海上保安庁法20条は、01年12月に奄美沖で海保の巡視船が不審船を撃沈し、乗組員15人を殺害・行方不明にした事件の引き金となった条項である。こ れを自衛隊にも拡張し、外国船保護の名目でも発動できるようにする。自衛隊は世界のどこでもいつでも武力行使に手を染める法的根拠を持つことになる。

 「強盗している人たちに対し、こっちもやられたらやり返さないとしょうがない」―ブッシュばり保安官気取りの麻生の言葉(2/8)だ。自衛隊のグローバ ルな作戦展開に道を開く海賊対策新法を国会提出させてはならない。

アフリカ進出の後ろ盾

 ソマリア派兵への固執にはアフリカの豊富な天然資源の争奪戦に食い込もうという意図がある。ソマリアはエチオピアやスーダン、コンゴといった国々と米欧 アジアをつなぐ鉱産物資源・エネルギーの輸送中継地として高い戦略的位置を占めている。米国が昨秋、米軍再編の一環として「アフリカ総司令部」を創設した のも、最大の動機はアフリカの資源の確保にある。日本のグローバル資本も乗り遅れてなるものかというわけだ。

 ソマリアの海賊は、米国の対テロ戦争がもたらした無政府状態の産物だ。海賊のノウハウは英国の民間軍事会社が提供したとの指摘もある。対テロ戦争の根本 的清算と補償による平和の回復と雇用の創出以外に解決策はない。

 ソマリア派兵命令と海賊新法は麻生内閣ともどもただ消え去るのみだ。

  (2月23日)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS