2009年05月22日発行 1084号

【どうみる、どうする「新型」インフルエンザ / 医療問題研究会 林 敬次さんに聞く / 日本政府の「検疫」は異常 / 普通の風邪対策で十分】

 「新型」インフルエンザをめぐって政府・マスコミの大々的な「対策」報道がくりひろげられている。この事態をどうみれば、そしてどうすればいいのか、医 療問題研究会代表で小児科医の林敬次さんに聞いた。(5月10日)

大げさすぎる報道

◆そもそも「新型」インフルエンザとはどのようなものですか。その起源は。

 今回の新型(豚)インフルエンザ(以下「新型」)は、恐ろしいものでありません。世界保健機関WHOも、米国の疾病管理センターCDCも、毎年流行して いるインフルエンザと同様だろうとしています。したがって、新しいインフルエンザが流行し、多くの人々が感染する可能性はありますが、毎日トップニュース で扱うほどとは思えません。

 ところで、インフルエンザはHとNに番号をつけて分類し「新型」はH1N1型です。4千万人も死んだと恐怖をあおる材料に使われるスペイン風邪 (1918〜1919)と現在のソ連風邪(1977〜)もH1N1です。同じH1N1でも、遺伝子などは豚とヒトでは相当違います。今回、初期には「豚、 豚」と報道されましたが、米国もメキシコも豚での流行はありませんでした。だとすると、報道されているように、ヒトと豚や鳥のインフルエンザが豚によって ミックスされて「新型」になり人間に移した、ということでは説明できません。

 1976年に米軍のフォート・デックス訓練基地だけで突然発生したインフルエンザもH1N1で、豚とされました。しかし、今では「研究室から漏れた」な ど人為的なものと考えられているそうです。2004年にもアメリカのバイオ企業のミスで流出の危機がありました。

 「新型」は北米の豚、アジア・ヨーロッパの豚とヒトの遺伝子をもち、起源は1998年に米中部に出現した豚インフルエンザだ、とする見解(米コロンビア 大)があります。今では、弱毒性インフルエンザを強毒性にできるなどの遺伝子操作が可能となっています。インドネシア保健相は、遺伝子操作で作られた可能 性が否定できないと公式に述べています。WHOやCDCの発表や報道ではほとんど触れられませんが、この起源を明らかにすることが根本的な対策にとって必 要です。

◆メキシコでは多数の死者が出たと報道されましたが。
 報道の最初4月24日にはメキシコで死者が60名超(疑い患者800人)、28日には159人(疑い2498人)、5月1日毎日朝刊には死亡176人 (感染確定患者99人)と発表されました。これでは、ほとんどの人は大変怖い病気だと考えざるをえません。

 ところが、同日の夕刊では急に死亡者12人(確定312人)に減少し、以後10人台が続き、現在(5月10日)では45人(確定1364人)となってい ます。メキシコでの死亡率も低下しているのですが、相当亡くなっていることは確かです。他方、アメリカでは感染者1639人中死亡2人で、この2人はとも に慢性的な病気を持った方です。

貧困と死者の関係

 鳥インフルエンザでは世界で258人亡くなっています(5/6)が、いわゆる先進国ではゼロです。スペイン風邪も、植民地など劣悪な環境に置かれた被抑 圧者の死亡率が極端に高かったのですが、今でも普段の栄養状態が悪く不健康な環境にある人々は、簡単な下痢症や肺炎で何百万人も亡くなっているのです。

 メキシコの死亡者の詳細はよく分かりませんが、7日以内に治療を受けた人はほとんどが回復したというメキシコ専門医の証言(5/5朝日)が示すように、 医療へのアクセスが悪いことにより、多くはインフルエンザそのものよりも、肺炎などの合併症で亡くなっているものと思われます。

◆日本政府の対策をどう見ればよいのでしょう

 「水際作戦」や「検疫」が大々的に報道されています。しかし、発熱などのチェックでは病気の潜伏期は無症状の人はもれるし、発熱初期には簡易検査が陰性 に出ることが多く、流入を防ぐことはできません。ですから、WHOは検疫が疾患の広がりを減らすとは考えていないとしており、さらに、旅行者の人権に十分 配慮することを求めています。厳しい検疫と隔離をしている日本政府の方針は世界的に見ても異常です。

タミフルは危険

 舛添厚労相は早々にワクチンの製造を宣言しました。しかし、今までの人インフルエンザワクチンが流行を防ぐことも症状を抑えることもできないことは、世 界中の研究から明らかです。「新型」用のワクチンも同様です。前述のフォート・デックス訓練基地の豚インフルエンザ騒ぎの際、全国民にワクチンをする計画 でフォード大統領は大統領指名ではレーガンに勝ちましたが、国民はワクチンの副作用で大変な目にあいました。その二の舞をしてはいけません。

 タミフルなどの抗ウイルス剤は、これまでの多くの実験では、良くても単に発熱を1日早く抑える程度です。肺炎などの合併症を防ぐという効果も証明されて いません。重大な副作用があり、むしろ流行を長引かせるというデータもあるほどです。「新型」には試験管内では「感受性がある」そうですが、効く可能性は ほとんどありません。

 巨大企業や政治に押されてか、WHOやCDCもこれらの抗ウイルス剤の使用を勧告していますが、通常のインフルエンザと同様に、使用するのは入院してい る患者と5歳以下やエイズなどのハイリスクグループに限定し、それ以外は治療不要としています。

 日本では、通常のインフルエンザと同様に、タミフルなどをみさかいなしに使うようです。大阪府健康医療部のマニュアル(暫定版)には、「疑いであって も、できるだけ早期にタミフルの投与を実施」と書かれています。

医療・福祉の充実を

 ともあれ、これらの情報の洪水によって、人気が薄れてきたタミフルや、開発につまずいている鳥インフルエンザワクチンに代わる「新型」用ワクチンなどの 備蓄や使用で、製薬企業がしこたま儲けることは間違いありません。

 事実、タミフルを販売している中外製薬の株は、4月末から急上昇しています。親会社のロッシュや、タミフルを開発した会社の大株主であるラムズフェルド 元国防長官も大もうけでしょう。

◆では、対策はどうすれば。

 もちろん、近くに患者がいれば、マスク、手洗い、水でのうがいなど、普通の風邪対策をするにこしたことはありません。

 また、「新型」が流行すれば、肺炎等の合併症が増えることが考えられます。公立病院の削減など日々ぎりぎりで乗り切っている現在の医療施設では、パンデ ミック(感染症が世界規模で流行すること)には対処できません。医師や看護師をはじめとする医療スタッフと施設の充実を図ることこそ緊急の課題です。

 今回の「新型」がどうだったかは別にしても、今後の、より危険なインフルエンザを出現させないために、公的で開かれた監視・管理体制を作り、危険な研究 をさせないことも重要です。

 今回の流行で最も被害があるとすれば、発展途上国で貧困と抑圧に苦しむ人々です。世界的規模で、貧困・抑圧をなくすこと、雇用・社会保障の充実で市民の 日々の健康を保障することが、新型インフルエンザ対策の基本です。そのためにも、軍事費やワクチンの実験と備蓄、タミフルの備蓄や使用の予算を医療・福祉 の充実に回すべきです。

◆ありがとうございました。
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