2009年11月27日発行 1110号

【就労の実態見て最高裁は判断を 宮里邦雄・日本労働弁護団会長】

 松下PDP事件の最高裁弁論が間近に迫った。この弁論が意味するものについて日本労働弁護団会長の宮里邦雄弁護士に語ってもらった。(編集部の責任でまとめました)

 大阪高裁判決の意義は、いわゆる偽装請負による就労実態に着目して、派遣でもなく請負でもない直接の雇用関係、黙示の労働契約の成立を認めた点にあります。

 従来の考え方は、違法派遣や偽装請負ではあっても就労先との間に直接の雇用関係が成立するとは言えない、というもので、根底には、労働契約は雇う側と雇 われる側の合意に基づくとする「契約意思」や「契約形式」を重視したとらえ方があります。しかし、力関係の格差のある中では、契約の形式なんていくらでも 偽装や作為ができる。高裁判決が評価されたのは、「意思」や「形式」にとらわれず、実態を踏まえた労働契約成立論を展開したからです。

違法就労の排除へ

 最高裁の弁論は、一般的には高裁判決の見直しを意味します。しかし、私がかつてかかわった国鉄郡山工場事件では、最高裁が弁論を開いたので負けると思っ たら、高裁を上回るいい判決が出た。年休権の行使をめぐる事件でしたが、労基法のきわめて重要な権利について最高裁は初めて判断するにあたって双方の意見 を聴いたのでしょう。今回も、違法な就労がまん延する中で起こった社会的にも注目された事件なので最高裁として判断を示す必要があると考えたと見ることも できる。

 最高裁は、労働契約が成立しているかどうかを就労の実態を踏まえて判断すべきであり、そのような判断手法をとれば高裁判決は正しいという結論になるはず です。使用者がいくらでも操作できる契約の形式ではなく契約の実相に迫って判断すれば労働契約と見る以外にないわけですから。もう一つ言いたいのは、派遣 法抜本改正の論点との関係です。違法な派遣があった場合は派遣先との間に雇用関係があったものとみなすという「みなし雇用」の理論的な裏づけになる。違法 派遣・偽装請負をやって就労させた者との間には雇用関係が成立するということを明らかにさせれば違法な就労の排除・抑制にもつながります。

直接・常用雇用が原則

 雇用の原則は直接雇用、常用雇用です。雇用責任のきわめて緩い、かつ低賃金で利用できる労働の仕組みが立法的に許されていれば、資本はそれを利用する。 それが非正規雇用を増大させ、現在の格差や貧困の問題につながったわけで、そこを変えようというのが総選挙の結果に示された国民の審判でした。労政審で経 営者側が、規制を強めるな、現状維持が正しいと主張するのはあまりにも利益追求一辺倒です。製造業の現場は派遣によって技術が伝承されず、正規と非正規の 壁ができて職場の人間関係が壊れパワハラが多発するなど人事管理の病理ともいうべき事態が起きている。この機会にしっかりした雇用のあり方を打ち立てるこ とが、長い目で見れば企業にとってもプラスになるはずです。

 最高裁には、こうしたわが国の雇用のあり方をも念頭に置いた判断を求めたい。
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