2009年12月04日発行 1111号

【脇田滋龍谷大学教授が語る 松下PDP事件最高裁判断 「派遣先の雇用責任」は世界の流れ】

 松下PDP事件の最高裁弁論について、労働者派遣法の廃止を主張している龍谷大学法学部の脇田滋教授に話を聞いた。(編集部の責任でまとめました)

直接雇用原則の再確認

 大阪高裁判決は、「労働者を実際に働かせて利益を得ているエンド・ユーザーが雇用責任を負う」という直接雇用原則を再確認したものです。労働者派遣は、 労働者が派遣会社と雇用契約を結ぶ形式で、派遣先の雇用責任をあいまいにしていますが、松下PDP事件は、この派遣法すら逃れる偽装請負でした。本来の直 接雇用原則に基づいて、松下PDPの雇用責任を認めた点に高裁判決の最大の意義があります。

 行政や裁判所は派遣法施行以降、雇用主は派遣会社だとして、派遣先の雇用責任を免罪してきました。EU諸国では、派遣が利用可能なのは業務量が一時的に 増加したなど、一定の理由があるときだけです。業務が恒常化すれば派遣先が常用雇用化するのが原則です。ところが、日本では、行政や判例の多くは長期派遣 や違法派遣の場合でも、派遣先の雇用責任をあいまいにしてきたのです。大阪高裁判決は、派遣法が労働法体系の中でも、きわめて例外的なものであり、違法派 遣では、実際の使用者である派遣先が雇用責任を負うことを改めて確認しました。当然の判断ですが、最大争点である派遣先と労働者の雇用関係を認めたことは 重要です。

 しかし、高裁判決には、なぜ期間2か月の有期契約のままなのか、なぜ労働条件は松下PDPの正社員と大きく違って低い労働条件のままなのか、疑問が残り ます。高裁判決で問題が全面的に解決されたわけではありません。実は韓国でその点を指摘されました。「日本では、なぜ差別待遇のことを言わないのか」と。 韓国は派遣法で、派遣先正社員との均等待遇が大前提となっています。違法派遣などで派遣先に雇用されたときは、当然、派遣先就業規則が適用されるのです。

国際感覚が問われる

 今回、最高裁が会社側の上告受理申立てを受け入れたことは問題です。高裁判決を支持して、上告受理をしないという判断をするべきでした。高裁とは逆に、 派遣先の雇用責任をあいまいにする判断に変わる危険性があります。ただ、そうは言っても松下PDPの事案は、派遣が禁止されていた製造業務で偽装請負形態 をとったこと、直接雇用の間、原告を一人隔離したことなど、きわめて悪質な点が特徴です。「法の番人」である最高裁が、違法・悪質行為を免罪することは容 易にはできません。とくに、偽装請負の場合、受入企業に雇用責任を負わせることは世界各国に共通した考え方です。韓国の大法院(最高裁)は、昨年二つの判 決で、この点を再確認しました。日本の最高裁としても人権感覚と国際感覚にあふれた判断をしてほしい。

世界中が注目する判断

 最高裁が法的正義を実現するのか、違法企業を免罪するのか、日本中、いや韓国を含めて世界の多くの人々が注目しています。このことを最高裁の裁判官たち に知らせるとともに、「違法企業は当然の雇用責任をとれ」という世論をいっそう盛り上げていくことが重要となっています。
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