2009年12月25日発行 1114号

【シネマ観客席 キャピタリズム マネーは踊る 脚本・監督・製作 マイケル・ムーア 2009年 米国 資本主義は悪、取りかえよう】

  マイケル・ムーア監督の最新作『キャピタリズム / マネーは踊る』が東京・大阪で先行公開されている。これまでムーア監督は、失業、戦争、医療などをテーマに、米国社会の暗部に斬り込むドキュメンタリーを 撮り続けてきた。そうした諸矛盾の根底にあるものとして行き着いたのが、キャピタリズム=資本主義だったというわけだ。

合法化された格差

 「映像作家として20年間訴えてきたことの集大成として資本主義そのものをテーマにしたんだ」。本作品の狙いについてマイケル・ムーア監督はこう話す(12/17週刊文春 / 以下引用同じ)。

 「根本的には資本主義に問題がある」との思いは、ゼネラルモーターズ社の大量解雇を告発した長編デビュー作『ロジャー&ミー』の撮影時からあったという。

 映画の原題は「キャピタリズム / ラブストーリー」という。資本主義を描く映画がなぜ「愛の物語」なのか。「資本主義者たちが金を愛しているからさ。奴らは他人の金まで愛して欲しがってい る。そしてアメリカの上位1%の富裕層が底辺の95%より多い富を所有する超格差社会になってしまった。それでも奴らは満足しない。もっと欲しがる。まる でケダモノだ」

 2時間7分の映画には、資本主義の牙城たる米国の恥部がこれでもかと盛り込まれている。観終わった後、資本主義の正体が「合法化された強欲なシステム」(ムーア監督)であることを、あなたは理解しているであろう。

 だから映画を観てほしいと言えば本稿の目的は足りる。とはいえ、それでは少々芸がない。作品中のエピソードについて、いくつか解説を加えておこう。

金融資本が支配

 映画の冒頭に、ある家族が自宅に押し掛けてきた保安官に立ち退きを迫られる場面がでてくる。彼らはサブプライムローンの被害者だ。サブプライムローンと は、一口に言うと低所得者向けの住宅ローンのこと。銀行や住宅ローン会社は甘い言葉で貧しい人々を誘い、彼らの収入では到底返せないような支払い条件で ローンを組ませていった。
 こんな無茶な貸し付けが規制されなかったのか。映画に登場する大手住宅ローン会社の元社員は「会長の友人には無利子で融資を行った」と暴露している。要は、金融規制担当の役人や上院議員を買収し、見て見ぬふりをさせたということだ。

 ローン回収が難しくなった途端、略奪的貸付契約の本性が現れる。担保となった住宅は競売にかけられ、住人は容赦なく追い出される。「銀行強盗でもしたい気分だ。奴らこそ強盗じゃないか」。自宅を奪われ、家財道具ごと放りだされた老人の言葉だ。

 このほかにも、年収200万円のパイロットや社員が死ねば会社が儲かる生命保険など、仰天のエピソードが続出する。今の米国は建国の父たちが理想とした民主主義とは程遠い。どうしてこんなことになってしまったのか。

 答えは簡単。一握りの金持ち、特にウォール街の住人が政治・経済の実権を握っているからである。歴代財務長官を見よ。その職に就いているのは、そろいもそろってゴールドマン・サックスなど金融資本のトップではないか。

 狂乱のマネーゲームで世界経済を大混乱に陥れた彼らは、その責任をとることもなく、自らの救済法案を成立させた。金融機関に投入された血税、実に7千億 ドル(当時のレートで64兆円)。もうおわかりであろう。「資本主義は自由競争」という金持ちの言い分は真っ赤なウソなのだ。

闘えば変革できる

 こんな不正を許していいのか−。いつもならムーア監督自身が「カメラ片手に責任者を直撃」となるところだが、本作品は米国世論の変化を描くことに力点が置かれている。そう、人々は金持ちのインチキに気がつき、怒りの行動を起こし始めたのだ。

 たとえば、シカゴの労働者による工場閉鎖反対闘争である。会社(リパブリック・ウィンドウズ)は取引先銀行のBOA(バンク・オブ・アメリカ)に融資を 断られ倒産。労働者は全員解雇された。だが、彼らは「銀行が救済され自分たちがクビというのは納得できない」として職場を占拠し闘い抜いた。

 闘いは地域の人々の共感をよび、労組だけでなく多くの市民が救援物資を持ってかけつけた。結果は労働者側の勝利。8週間分の賃金などに相当する解決金を勝ち取ったのである(詳しくは本紙1066号の現地ルポ参照)。

 人々が団結し行動すれば社会は変革できる−−それが本作品のメッセージだ。映画の結論は「資本主義は悪だ。排除して取り換えよう」。ムーア監督が言うように、私たちには「人民によって管理される新しい経済」を作り出す力がある。      (O)

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(東京・大阪で先行公開中。1月9日より全国公開)
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