2011年10月28日発行 1204号

【低線量被ばくでも安全ではない 医療問題研究会・林敬次さん(小児科医)】

 10月9日に大阪市内で開催された「原発・放射能汚染から命を守るつどい」(主催:MDS)で、医療問題研究会の林敬次医師(小児科)が「低線量・内部 被ばくの危険性―その医学的根拠」と題する特別報告を行なった。その要旨を掲載する。(まとめ・見出しは編集部)

がん・白血病の増加

 福島第1原発事故による放射能汚染が拡散しており、先日はプルトニウムやストロンチウムが45`以上も離れたところから検出されたと報道されました。私 たちも重い物質だからあまり飛ばないのだろうかなどと論議したことがありましたが、やっぱり飛んでたんですね。

 ところが原発推進派は、この期に及んでも福島県健康管理アドバイザーの山下俊一を筆頭に「100_シーベルト以下なら何ら障害がない」などと公言し、不 幸なことに日本のほとんどの「専門家」もこれに同意しています。

 しかし、低線量でも障害が生じることは多くのデータで証明されています。きょうは、その一部を紹介します。

 子どもの甲状腺がん増

 低線量での障害としては、子どもの場合は甲状腺がん(これは内部被ばくの典型例です)と白血病など、成人では原発労働者のがんを紹介します。

 チェルノブイリ原発事故の際、ベラルーシも放射能汚染が広がりましたが、内部被ばくが少なかった首都ミンスク市(10_グレイ<注>以下)でも甲状腺が んがピーク時で10万人に15人ほど発生しています(図1)。それに対してポーランドでは甲状腺がんが増えませんでした。それは、政府が国内の牛乳をすべ て禁止し、粉ミルクは輸入品のみとするなど徹底した汚染対策をし、被ばく時にヨード剤を飲ませたためと思われます。

 また低線量地域と思われたキエフ市(土壌汚染は高崎市と同程度)でも、白血病・リンパ腫が事故前の10万人あたり10人から5年後には15・5人に急増 しています(図2)。

 大阪は福島から600`ぐらい離れていますが、チェルノブイリから1500`も離れたギリシャでも、乳児白血病が2・6倍に増えました。

 小児がんは正常運転しているドイツの原発周辺でも増えています。図3は、5歳未満の子どものがんと白血病が5`以内、10`以内とそれより外とで何倍違 うのかを示したものです。原発に近い地域ほど発症率が高いことがわかります。

原発労働者の被ばく

 政府は国民の被ばく基準をこれまでの年間1_シーベルトから事実上20_シーベルトに引き上げようとしていますが、15か国の原子力関連労働者の調査に よると、累積被ばく量(働いている間に受けた全被ばく量)は世界平均で19・4_シーベルト、日本で18・2_シーベルトです。20_シーベルトというの は、原発労働者が全労働期間で受けるほどの量なのです。同調査では、19_シーベルトの被ばくの場合、白血病を含むすべてのがん死亡が1−2%増えていま す。また日本の労働者の場合に限ると、4%増加しています。

 次に、がん以外の障害について述べたいと思います。これは、主に流産と形態異常児です。

 低線量・外部被ばくでも流産は倍増しています。獣医の場合ですが、1週間に5枚以下しかレントゲン撮影しない獣医に比べ、6枚以上撮影する獣医は流産の 数が1・82倍になっています。

 ベラルーシで生まれた形態異常児の写真を示しますが、多指症や四肢欠損などが多く発生しています。

内部被ばくの軽視

 日本政府が食品汚染の基準算出に使っているICRP(国際放射線防護委員会)は、がん以外の低線量被ばくの被害を認めず、内部被ばくを低く見積もるとい う問題があります。

 4図は、放射線量ごとに甲状腺がんの発生をICRP理論に基づいて推定した人数と実際の人数を比較したものです。低線量ほど格差が大きくなっており、 ICRP理論が低線量被ばくであるほど過小評価する欠陥理論であることがわかります。

 食品安全委員会の食品の放射能汚染に関する暫定基準は、セシウムの場合は年間5_シーベルトを飲料水、牛乳・乳製品、野菜類、穀類、肉・卵・魚介類の5 つに1_シーベルトずつ振り分け、それにICRPの換算係数を使って摂取基準値を算出しています。ところが、より信頼できるECRR(欧州放射線リスク委 員会)の換算係数を使って計算し直すと、食品安全委員会の暫定基準値どおり食べた場合、セシウムだけで年間25_シーベルトの内部被ばくをする可能性があ るのです。

 被ばくの害に、これ以下なら被害がゼロになるという「しきい値」はありません。環境からの被ばく、水や食品などからの被ばくを可能な限り少なくする運動 が必要です。


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