2012年01月06・13日発行 1214号

【全米に広がるオキュパイ運動 不平等に怒り行動する市民】

 2011年5月15日、スペインの首都マドリードのプエルタ・デル・ソル(太陽の門)広場 占拠とそれに続く大規模な抗議行動に端を発したオキュパイ運動。9月17日ニューヨークのウォール街占拠へとつながり、全米各地で占拠やデモが広がってい る。その背景には、失業・貧困・国民生活の困窮にもかかわらず一握りの超富裕層にさらに富が集中する構造に対する地球規模の市民の怒りがある。


失業で住宅失い生活困窮

 オキュパイ運動は、組織されていない学生や市民が中心となっているのが特徴だ。誰もが抗議行動に立ち上がるほど深刻な米国の現状を見てみよう。

 2008年の金融危機以降、800万人の雇用が失われ、失業者は現在約1400万人にのぼり、しかも平均失業期間は40・5週(10か月足らず)と長期 化し、1年以上職がない人は3分の1を占める。一度失業すると、なかなか職を見つけることができない。

 米国ではいま、住宅ローンの返済ができずに家を失う人が続出している。自宅所有者のうち4分の1近い1100万人が、住宅価格がローン残高を下回る債務 超過状態にある。これらの世帯は失業したとたんに住宅ローンを返済できなくなる。すると、金融機関が容赦なく差し押さえ、家から追い出してしまう。父親が 家から追い出された青年は「バンカメ(バンク・オブ・アメリカ)は1千億j以上の救済資金や税金の払い戻しを受けたではないか。こんなことが許されるの か」(10/6日経)と憤る。

 学生や学卒者はローンの重圧に苦しんでいる。教育の公費負担の少ない米国では、多くの学生がローンを組む。卒業後に始まる返済は月千j(約7万8千円) にも達する。だが大学を卒業しても職がない。ある学生は「大学を出ても仕事がないし、学費が値上がりして学生ローンを返せるかどうか分からない」 (10/14産経)と嘆く。

 「ウォール街を占拠せよ」デモも、高額のローンに不満を抱く学生たちの座り込みが大きな契機となった。「政府は大企業を救済し、若者や庶民は置き去りに された」不満がデモの発火点だ。「銀行救済で中流階級が割を食った」というデモの主張は、世論調査でも79%の支持を受けている(10/9読売)。

中流は没落、広がる格差

 所得格差が拡大していることは、米議会予算局の報告書でも明らかになった。上位1%の最富裕層の所得は過去28年間で275%増加したのに対し、最下位 20%の低所得層は18%増にとどまった。また米国の全世帯の収入合計に占める上位1%の収入合計の割合は、79年の9・3%から07年には19・4%へ と拡大。これに対し、最下位20%のそれは5・8%から4%へと縮小した。

 米国勢調査によると、全米の貧困層(4人家族で年間所得が2万2314j=約174万円以下)は2010年に全人口の15%にあたる4618万人と過去 最高になった。10年中に貧困層に転落した人は260万人に達する。

 一方、米主要企業500社の最高経営責任者(CEO)の年俸は08〜09年と2年連続で下がったが、10年には上昇に転じ、平均年俸は900万j(約7 億1千万円)にのぼる(「肥田美佐子のNYリポート」7月15日)。金融界を代表するゴールドマン・サックスのCEOは、1320万j(約10億3千万 円)と飛び抜けて高い。米国の大企業のCEOの年収は、80年には平均的な労働者の42倍だったが、10年には343倍と格差は広がっている。

 デモに参加した女性は「富める者がますます豊かになり、持たざる者の暮らしが壊れていく」(11/7琉球新聞)とその思いを語っている。

「われわれは99%だ」

 オキュパイ運動は、グローバル資本主義の中から生み出された。

 グローバル化に伴って製造業は海外に流出、残った企業ではリストラが進み賃金は抑制された。

 金融が経済を支配するようになるにつれ、経営者は株価を気にして短期的利益だけを追い求め、簡単に労働者の首を切る。その一方で、短期的利益をあげた経 営者は労働者が一生得られないほど高額の報酬を手に入れる。政府に圧力をかけ、国際競争を口実に法人税やキャピタルゲイン(株式や債券を売って得られる利 益)への課税を引き下げさせる。最近の調査で、米国の大企業30社が08〜10年の3年間、1600億j(約12兆5千億円)もの利益をあげながら法人税 をまったく払っていなかったことが明らかになった。

 税収が減ったしわ寄せは、福祉や教育費の削減という形で労働者・市民に転嫁された。リーマン・ショックでは金融機関は多額の税金がつぎ込まれて救済され たが、職を失い住宅ローンが返せなくなり、金融機関に家を奪われた市民には何の救済策もない。

 こうした不平等な社会のあり方に対する怒りや抗議が「1%」を代表するウォール街占拠という形で示され、多くの市民の共感を呼んだのだ。

 「われわれは99%だ」というスローガンを掲げるこの運動を通して、米国そして各国の市民は「この資本主義社会は不平等だ」と自覚し、人種や性別・年齢 に関係なく、等しく搾取される側だという連帯意識を獲得しつつある。

 米国をはじめ世界のオキュパイ運動と結び、反原発運動と非正規職撤廃運動を日本のオキュパイ運動へと発展させていかねばならない。


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