2012年01月06・13日発行 1214号

【地域に生産と雇用の場を 北海道の事業体を訪ねて(3) 稚内 有限会社ユーズカンパニー 事業体を闘いの火種として 残す】

 海岸沿いの国道を北上すると、丘陵に並び立つ風車が視界に入ってくる。日本最北に位置する ここ稚内市は、日本最大級の風車群と太陽光発電設備を持ち、電力の80%を自然エネルギーでまかなう。

 迎えてくれた田中博さんと、自然が豊かな北海道に原発がある愚かさを語りながら、宗谷岬に向かう。田中さんは国鉄闘争の中で生まれた事業体、有限会社 ユーズカンパニーの社員だ。


天然と手作りにこだわる

 ユーズカンパニーは現在12人体制で、2つの事業を営む。交通誘導警備は闘争団時代から土木工事や冬季排雪作業のアルバイトで関係を作ってきた会社から 請け負う。水産加工ではイカの一夜干しや塩辛、イクラの醤油漬などの真空パック冷凍食品を生産する。スーパー・小売店に卸しているほか、東京を中心に闘争 を通じて知り合った個人客にカタログ通信販売を行なう。昨年度の売り上げは全体で約4800万円。

 水産加工品は添加物・着色料等を一切使用せず、安心・安全な手作りにこだわる。田中さんは「麹(こうじ)で発酵させて作る塩辛はほとんど出回ってない。 うちは一回水を切って干して、米麹と腸(わた)と自然塩、宗谷の塩を使って完全な手作りしてる、自然発酵で。だから上手に作った時はほんとに深みがあって 味がいい」。イクラの塩漬けも一般には化学調味料や防腐剤を使うが、「うちのイクラ醤油漬けは本醸造の醤油と三河の本みりんをベースにしてるから、ほんと に自然な味なんだよね」と製品の魅力を語る。

 イカ一夜干しのおすすめの食べ方を教えてくれた。「一番は素焼き。少し塩分がほしい人は塩、できれば荒塩をふってください。意外とやらないけど、天ぷら にしたり、唐揚げとかね。これはうまい、歯ごたえがあって。調理があまりできない人は真空パックのままチンして、破裂する直前でとめる。2分くらいで解凍 して少し白くなってくるから一度ひっくり返して、ふくらんでくるとちょうど煮え頃、焼けてる。蒸し焼きみたいでうまいんだよ」

 取締役の一人で、現在は稚内市議も務める藤谷良幸さんに課題を尋ねると、交通誘導警備では「年齢の高さと資格の取得」、水産加工では「販路と新商品の開 発」との答えが返ってきた。

課題は後継者と商品開発

 ユーズカンパニーは50代が3人で、あとは60歳以上。「年齢が高い人はそんなに長く勤められない。だから2、3年の間に交通誘導警備の形を何とか作り たい」。交通誘導警備を請け負う際に必要な教育指導責任などの資格者がいなくなり、仕事を受注できない状態だという。「来年春から夏にかけて今のメンバー で資格を取っていこうと話しているんです。そうすれば、他の人を雇い入れて、仕事を回せる」

 水産加工では、生産する人が回らず、新商品というところまで手が届かない。「何とか今までの生産ラインを確保して、従前の販路を極端に落とさないように しなきゃならない」。頼みの綱は年末商戦需要。正月用のカニなども扱い、「付き合いがあった東京の方にも強くお願いする。とくに労働組合。『闘争終結しま した。お世話になりました』で終わってるから、これから年末にかけてきちっとオルグして。商売でオルグっていう言い方は変だけど(笑)。行商に行かなきゃ ならない」。

 田中さんは、事業体を継続する意義は雇用創出のほかにもあると指摘する。「闘ってきた支援されてきた、その結末の問題をどんなふうに継続させるかという ことももう一つの課題。大事なのはそこなんですよ。少なくて力がなくて、財力もなくて運動もちっちゃくなっているけど、事業体で何人かがちゃんと関わりを 持てるように発展すればいいわけです。それを一つの闘いの火種として残せるんだし」

 事業体を自立させていくことの困難は大きいが、その意義はなお大きい。ユーズカンパニーの体制づくりが始まっている。

  (続く)

有限会社ユーズカンパニー
北海道稚内市末広2丁目1番22号
TEL・FAX 0162-22-8274


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