2012年01月06・13日発行 1214号

【非国民がやってきた!(125)  井上ひさしの遺言(3)】

 「この男は古橋健二という小説家である。年齢は50歳。酒焼けで鼻先が赤鰯色を呈してい る。背は低く、猪首で、額の生え際が後退しかけ、頬はたるみかけ、歯は欠けかけ、皮膚のあちこちに斑点が湧きかけ、常にびっくりしたように大きく丸く見開 かれている眼は老眼になりかけ、駅のそばの月賦デパートで見つけた吊るしの夏上衣の下で腹が迫出しかけ、中年の見本のような男である。」

 筆者のことではありません。筆者はいつも作務衣を着ていますから。後に吉里吉里国第2代大統領となる売れない三流作家の古橋健二は、東北本線の夜行列車 『十和田3号』4両目の12B席で眠りから覚めます。偽古橋健二が活躍する本編でも、十和田3号が脱線事故でも起こしたかと思いきや、猟銃ウィンチェス ターライフル・モデル70を持って少年警官・偽イサム安部が登場します(いずれも偽物ですが、わずらわしいので偽の字は以下省略)。

 「おらはこの国の警官、でやんす」

 続いて入国警備官ヨサブロー内藤から「みなしゃんの旅券(りょげん)ば拝見してえもんで」と求められ、十和田3号の乗客は旅券不保持の出入国管理令違反 のため入国者収容所に収容されます。

 総人口4187人の吉里吉里国の独立事件を活写した井上ひさし『吉里吉里人』がベストセラーとなるや、全国各地に「独立国」が林立しました。文学が社会 現象となった高齢、いや恒例、違った好例です。交霊ではありません。独立騒ぎに巻き込まれた古橋健二は、日本国を捨て吉里吉里国の国民となり、元吉里吉里 小町のケイコ木下(きおろし)と世帯を持ち、エッセー『いかなる前世の因縁か』により第1回吉里吉里文学大賞を受賞します。さらに、手榴弾によって殺され た初代大統領カツゾー小笠原と「タッチ」したために第2代大統領に就任した古橋健二は、就任式で吉里吉里国の機密を漏らしてしまいます。

 「たとえばわしはこの病院のトイレのあらゆる金隠しが金でできていることを知っている。金隠しに金が隠してあるのだ。井上ひさし先生の遺言も金隠しの裏 に隠してある。」

 「ふ、ふ、古橋先生ッ、其(そ)様(げ)な事(こど)ば喋(さべ)っては駄目(わがんねー)だ!」

 タヘ湊総看護婦長の声です。

 「やめろ、やめて呉(け)ろ! 古橋先生ッ!」

 吉里吉里国に潜入していた秘密工作員が病院に殺到しました。あわてた少年警官イサム安部が井上ひさし先生の遺言を取り出して逃げようとしましたが、突 然、立ち止まって叫びました。

 「しまった。これだば遺言ば読めねえ。」

 トイレの金隠しの裏側に貼り付けてあったため濡れてしまい、インクがにじんで判読困難になっていたのです。

 「たと◯◯、◯◯ネーブ◯条約に基づく『◯◯備地◯◯言』の◯◯◯定運動◯す。◯◯備地◯の◯え方は◯法◯条の◯武装平和◯◯にうな◯◯◯てできま ◯◯。◯く武器、つま◯◯隊がいない、固定◯◯◯◯事基地◯◯◯する、◯民に戦う◯思がないな◯の条◯を満たす『◯◯備地◯』◯◯ることを◯言した◯◯、 国◯条◯によって攻撃◯◯◯して◯ます。◯◯◯た平和◯◯を◯◯全国◯◯◯こちに◯生させた◯◯◯す。

 強調◯◯◯のは、◯◯は国際◯◯で、日◯◯府も2◯◯5年3月◯批准し◯◯◯。憲◯98条の2◯◯は、こう明◯◯◯ています。『日◯◯が◯結した条 ◯◯◯確立◯◯た国際◯規は、◯◯を誠実に◯◯◯◯ことを必要◯◯る』。だ◯ら、◯際条◯は国民の◯◯◯かけて守ると◯◯◯気概を見◯◯、国際◯◯認めら れた◯◯の平和◯◯をつく◯◯◯うに、その◯◯◯理解と◯◯を示◯議◯や市◯を選ん◯◯◯たい。」

<参考文献>
井上ひさし『吉里吉里人(上・中・下)』(新潮文庫、1981年)
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