2014年01月04日・11日発行 1263号

【キヤノン偽装請負争議 勝利解決!/2人が正社員として復帰/−非正規雇用のない社会へ大きな一歩−】

 キヤノン非正規労働者組合が前経団連会長企業を相手にすばらしい勝利を手にした。組合員2 人が関連会社に正社員として復職する。労働者を違法に働かせてきたことに対する事実上の謝罪も引き出した。現代の身分制=非正規雇用の撤廃に向け、小さな 組合が大きな一歩を印した。

 4月以来続けられてきた和解協議は12月20日、東京都労働委員会の場で大詰めを迎えた。組合は公正な解決を求める要請書771団体分を提出。佐藤昭 夫・早大名誉教授らが呼びかけた51人連名の学者・法律家・文化人アピールも手渡した。

 午後7時、3人の労働委員会委員が組合側と会社側から交互に話を聞く形で協議が始まる。組合側は闘病中のOさんを除く組合員4人がそろって出席し、納得 のいく解決を求めて意見を述べた。

大詰めの都労委協議

 「いま個人請負の形で働いている。仕事先まで片道2時間半。朝6時に家を出て帰りは深夜。私たちは生活がかかっている」(Mさん)「正社員以上に頑張っ て仕事してきたのに切られた。悔しい。和解で子どもが安心して進学できるようにしてほしい」(Tさん)「支援のみなさんや辞めていった友人、元組合員たち に胸を張って伝えられるような結果を」(Nさん)
 委員長の阿久津真一さんも「組合に入って不利益取り扱いされるなら非正規労働者は組合に入れない。差別的な働き方をさせられ、組合にも入れなければ、労 働者としての権利を全く享受できない奴隷になり下がるしかない」と指摘。「子どもがまだ小さい。この子が大きくなるまで働かなくてはならないが、いつまで 働けるか。非正規を選ぶというのはそういうこと。安心できる解決を」と訴えた。

 裁判と違い、労働委員会では支援の傍聴者も補佐人として発言できる。東京争議団事務局長の寺島やえさんは「当面の利益だけを求めて違法行為を繰り返す経 営者に対して憲法・労働法を守るよう指導し、労働者を保護するのが労働委員会の本来の役目」、いすゞ自動車争議の五戸豊弘さんは「裁判では派遣社員は直接 雇用ではないので解雇されて当然という不当な判決が続いている。労働委員会には、ぜひ労働者を勝たせる判断をしてほしい」と強調した。

ついに勝利の瞬間

 協議は長引き、じりじりとした待機の時間が続く。キヤノン側が都労委の示した和解の大枠について御手洗冨士夫会長じきじきの決裁を仰いでいたためだ。

 午後11時すぎ、審問室から組合員が笑顔で出てきた。終電の時間が迫ったTさんら3人は「みなさんのおかげです」「謝罪に近い会社側の言葉をもらえた」 「本当にありがとうございます」と語り、都労委を後にした。

 午後11時半、ついに和解の成立だ。荒木尚志公益委員(都労委会長)は「2人が関連会社に正規雇用という大変画期的な結果で円満な解決に至った」と宣 言。組合側から拍手が起こる一方、キヤノン側は代理人・会社担当者とも苦虫をかみつぶしていた。

再発防止を約束

 控室で久保木亮介弁護士が和解の内容を報告する。和解協定書でキヤノンは「宇都宮光学機器事業所での請負について栃木労働局長から、労働者派遣法違反が ある旨の是正指導を受けたことを真撃に受けとめ、今後同様の指導を受けることのないよう再発防止に向けた不断の取り組みを継続する」と表明。関連会社で組 合員2人を正社員として雇用する。また、協定書には入らないが調書に残す形で、キヤノンの担当部長が「組合員の皆様に長い間勤務していただいたことに感謝 します。雇用される2名の方について新しい職場で紛争が生じないよう会社は配慮します」と話したという。支援者から再び大きな拍手がわいた。

運動の力でつかんだ

 萩尾健太弁護士は「集会をやり要請行動をやり署名も集めた。運動の力でかちとった和解だ。『長い間勤務』と言わせたのは、偽装請負の時代もキヤノンが雇 用していたと認めさせたことになる」と評価。横山雅弁護士は「当該の組合員とくに阿久津さんの奮闘は敬服に値する。解決は他の争議を抱える人たちにも勇気 を与える」とたたえた。

 執行委員のYさんが「みなさんの力がなければこの日を迎えられなかった」とお礼の言葉を述べたのに続いて、阿久津さんがこみ上げるものを抑えながら語 る。「組合のことなど知らなかった非正規労働者が立ち上がり、組合をつくって大企業のキヤノンに立ち向かい、2人が正社員になれた。会社の中に、闘った組 合員が残る。キヤノングループでは今後、リストラが吹き荒れるだろう。再雇用の方から問い合わせも来ている。そういう人たちの受け皿になるよう、これから も頑張る」

 歴史的瞬間に立ち会った支援者も、阿久津さんの「この解決を多くの非正規労働者に届け、非正規のない人間らしく働ける社会をつくりたい」との決意を深く 胸に刻んだ。

【キヤノン争議とは】

 2000年からキヤノン宇都宮光学機器事業所で働いていた非正規労働者が06年、新聞報道で自分たちの働かされ方は偽装請負と知り、組合を作って栃木労 働局に偽装請負を告発。キヤノンは派遣・請負から直接雇用への切り替えを進めたが、組合員は最長でも2年11か月の期間社員にしかせず、組合が08年12 月都労委に救済申し立てを、09年6月東京地裁に地位確認訴訟を起こすと、09年8月末、報復的に解雇した。
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