2013年05月17日発行 1280号
【安倍政権の交渉参加反対/TPP グローバル資本の利潤獲得ツール】
|
4月20日、TPP(環太平洋経済連携協定)参加11か国閣僚会合は日本の
TPP参加を支持した。日本政府は早ければ7月にもTPP交渉に参加する。その狙いは何か。市民・労働者の生活
には何がもたらされるのか。
貿易・投資は完全自由化
TPPは参加国の間のモノ・サービスなどあらゆる貿易・投資を自由化する。関税のみならず、外国企業の参入を
阻む国内産業保護措置も原則撤廃の方向で交渉が進められる。
TPP参加に向けた日米2国間交渉では、日本の対米自動車輸出関税撤廃について「可能な限り後ろ倒しする」こ
とが合意された。自動車資本に限定すれば不満が残るものの、経団連米倉会長は「わが国のTPP交渉参加が確実と
なった。安倍総理、関係閣僚をはじめとする政府のリーダーシップを高く評価したい」ともろ手をあげて歓迎した。
グローバル資本総体では十分すぎるほどのメリットがあるからだ。
自動車産業でも、対米輸出関税が撤廃されなくても、アジアの関税が撤廃されれば輸出台数は大幅に伸びることが
想定される。マレーシアの関税は10%、ベトナムにいたっては74%の関税がかけられており、その撤廃はばく大
な利益拡大をもたらす。
その他、関税以外のさまざまな規制がかけられているコンビニエンスストア、すでにアジアで大きな位置を占めて
いる日本のメガバンク・証券など金融部門のいっそう大規模な進出が可能となる。ゼネコンの公共事業参入にも大き
く道が開かれる。成長著しいアジアのTPP参加国での富裕層向け商品・サービスが大幅に伸びる可能性がある。
すべての分野で規制緩和
では、国内はどうか。
メディアで主に取りざたされているのは、農産物の輸入自由化による農業破壊や食料自給率低下問題だ。だが、こ
とはそれだけでは収まらない。TPPはあらゆる規制の撤廃をもたらし、影響は国民生活全般に及ぶ。
たとえば、医療。日本の医療保険制度では、保険適用の診療と保険が適用されない自由診療を同時に行う混合診療
は認められていない。この規制の撤廃は、医療産業・保険業界に大きな儲け口を提供する。
米国の医療器具メーカーや製薬会社はこれまでも許認可の迅速化を求めており、混合診療が認められれば販売が格
段に伸びる。しかし、健康保険が利かないために患者の負担は増える。これが民間医療保険の儲け口となる。
総医療費抑制政策を強める政府も利用する。「社会保険は民間医療保険の参入障壁」とこじつけて先端医療、新薬
の保険適用を避ける。すでに保険適用となっているものを適用外とする。自己負担率をさらに引き上げる。こうした
医療費削減の契機となり、民間の医療保険をかけられない低所得階層は医療の場から締め出される。
このような国民生活の被害はあらゆる分野で引き起こされる。輸入食品の安全性無視、自動車の環境基準引き下
げ、小規模土木建設業者を排除する入札制度など、あげればきりがない。
儲け補てんのISD条項
TPPではISD条項(投資家対国家の紛争解決条項)が設定される。「非関税障壁」と呼ばれるさまざまな国内
規制を外国企業が「不当な差別的規制」と認識したとき訴訟を起こし、想定した利益の損失を投資先政府に補償させ
る制度だ。訴えが認められると、政府は国民の税金で外国企業の「損失」を補てんすることになる。
そもそも労働、医療、環境などの様々な社会的規制は、資本の勝手放題の利潤追求から国民生活を守るために運動
の力で政府と企業に押し付けてきたものだ。
グローバル資本に奉仕する政府は、これらの規制の緩和を狙う。グローバル資本が思うような利潤が上げられな
かったとき、ISD条項を使ってその儲けを補償する。
* * * *
これがTPPの構造だ。儲けるのはグローバル資本であり、損をするのは各国の労働者・市民だ。規制緩和により
生活を破壊され、本来なら自らの生活向上に費やされるべき税収をグローバル資本の儲けの「補償」に回される。
TPPをめぐる「対立」の本質は、参加国間のあれこれの分野での利害対立ではない。グローバル資本の利益を優
先するのか、それとも各国の労働者・市民の生活を優先するのか、という争いである。各国政府が協定の案文や交渉
内容を徹底して秘密にするのは、それを隠すためだ。
TPPとは、グローバル資本が国の違いを超えて連携し利潤を得るためのツール(道具)である。民衆の側も国際
連帯でこのもくろみを阻止しなければならない。
|
|