2013年05月24日発行 1281号

【シネマ観客席/いのちを楽しむ 容子とがんの2年間/制作著作:ビデオプレス 取材・構成:松原明 佐々木有美/自分の人生を自分で決める】

 乳がんを発症した女性が自然に自由に、仲間とともに生きていく。その「最期の 2年間」に寄り添ったドキュメンタリーが近く劇場公開される。

 この女性は、渡辺容子さん。東京・杉並の学童クラブ指導員だった40歳のとき、乳がんが見つかったが、『患者 よ、がんと闘うな』の著者・近藤誠医師を主治医に、がんと闘わない道を選び、手術や抗がん剤を避けて緩和治療に 徹した。56歳の2010年3月、近藤医師から「余命1年」の宣告を受ける。その4か月後、ビデオプレスの佐々 木有美さん、松原明さんによる取材が始まった。

 佐々木さんは振り返る。「容子さんは、今の医療はおかしいとずっと言っていた。金もうけ主義で、情報公開せ ず、患者を思い通り動かすことしか考えない。乳がんでもないのに乳房をとられたというひどい話がいっぱいある。 そのことに最後まで憤っていた」

 とはいえ、本作品は現代日本の医療を声高に告発・糾弾するものではない。松原さんは言う。「最初は、今のがん 治療はおかしいということをアピールする映画にするつもりだった。しかし、がんは一筋縄ではいかない手ごわい相 手。病態は一人ひとりみんな違う。人生そのものだと思う」

 カメラは容子さんの日常を丹念にたどっていく。表現ライブでのがん患者同士の対談、生前追悼集の発行、第二の 故郷・小笠原への旅行。経産省前の「原発いらない福島の女たち」の座り込みにもかけつけた。猫と一緒に、一日一 日を大切に歩き続けた。

 「容子さんは動物が大好き、自然が大好き、人間が大好き。人間的な魅力で人を惹きつける。私もとりこになった 一人」と打ち明ける佐々木さん。「自分が自分の主人公になる、自分の人生を自分で決めていく、という容子さんの 生き方がこの映画を通じて伝わってくれれば」と期待する。

 容子さんは、2012年3月に旅立つ3か月前、こんな言葉を遺した。「生きている間が大事なんです。生きてい るたった一人の人を大事にしてください。たった一人から世界が始まるんです」。松原さんによると、試写会で「死 が少し怖くなくなった」という感想が出されたそうだ。本作品は、しかし、死への恐怖を和らげるだけでなく、自分 らしく生きることのすばらしさとそのための勇気を届けてくれる。

 バックに流れるモーツァルトの歌曲『すみれ』のピアノ演奏が印象的だ。

          (A)

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《上映予定》

6月1日(土)〜シアター・イメージフォーラム(渋谷)連日午前11時
6月15日(土)〜シネ・ヌーヴォX(大阪・九条)21日(金)まで11:30/15:50 6/22〜6 /28は16:50/19:00 6/29〜7/5は13:00
8月 元町映画館(神戸)


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