2013年11月08日発行 1304号

【原発避難者・被災者への支援策を いま自治体要請強めるとき】

 10月11日、安倍内閣は全国からの批判を無視し、「原発事故子ども・被災者支援法実施のための政府基本方針」を閣議決定した。避難の権利を否定するこの基本方針は、撤回させ根本から作り直させる以外にない。同時に、避難者・被災者の待ったなしの要求に応える自治体独自の支援策を実施させるときだ。

 政府基本方針は、8月30日に復興庁が公表した基本方針案ほぼそのままで、支援法に保障された避難の権利を否定し、帰還促進に特化している。「支援対象地域」を福島県内33市町村のみに著しく狭く限定し、政府自らが法で定めた基準「公衆の年間被曝限度1ミリシーベルト」すら投げ捨てた。健康診断と医療補償については全く記載がない。放射能被害はないことを前提にしているのである。

 基本方針案に対して計4963件のパブリックコメントが寄せられた。大多数が、被災者の意見が反映されていない、支援対象地域が狭すぎる、放射能健康診断をせよ、など根本的転換を求めている。

全国の自治体から意見殺到

 注目すべきは、全国の自治体から意見書も含めて批判や要請が殺到したことだ。

 千葉県野田市・鎌ヶ谷市、茨城県常総市は「年間放射線量が1ミリシーベルトを超える『汚染状況重点調査地域』は、すべて『支援対象地域』に指定すべき」と意見を提出した。茨城県守谷市・取手市、千葉県我孫子市・流山市からは、加えて「法第13条『放射線による健康への影響に関する調査、医療の提供等』の支援」「健康管理対策など、子どもや妊婦に対して特別の配慮がされた施策を推進すること」などの意見。千葉県印西市・白井市・柏市・松戸市も同様の意見を提出している。栃木県知事は「支援対象地域の見直し」を求めて政府に緊急要望を行い(9/12)、栃木県議会も同様の意見書を提出した(9/17)。

 パブリックコメント締め切り後も、野田市をはじめ千葉県9市長が連名で同様の内容の要望書を根本復興大臣宛てに提出(10/3)、那須塩原市など栃木県内の汚染状況重点調査地域の市・町長が政府に要望し(9/24)、茨城県つくば市議会も意見書を提出した(9/30)。

 基本方針見直しを求める動きは、関東圏だけでなく、兵庫県加古川市議会(9/26)、京都府京田辺市議会(9/30)、滋賀県議会(10/11)と広がり、基本方針案公表以前も含めれば北海道から鹿児島まで全国200近くの自治体首長と議会が支援法の理念に沿った実施を求めている。

 政府は、これらの意見に対する見解を公表する前に閣議決定した。パブリックコメントや多くの自治体意見は完全に黙殺された。

住民の健康を守る責務あり

 現段階では、政府は支援法に沿った具体策の実行をかたくなに拒んでいる。政府がやらないなら、住民の命と暮らしを守る責務を持つ自治体に要求を突きつけ、国に先行して支援法に基づく施策を実施させることが必要だ。

 事態は急を要する。8月の福島県民健康管理調査で、甲状腺がんの子どもは43人と公表された。明らかな異常多発だ。これは初期被曝が相当量存在した事実を示し、今後、白血病など血液がんや他の固形がん、心血管系疾患など様々な健康障害が生じる危険性がある。全国どこでも希望する人に健康診断と適切な医療補償を行い命を守ることは急務となっている。

 各地で自治体に対し支援法の独自施策の実施を求める取り組みが進んでいる。大阪府堺市では、5億円の原資を持つ被災地等支援基金条例で「放射能健康診断」を実施させようと当局交渉。滋賀県でも、放射能健康診断を実施させる県民署名や議会への要請が行われている。

 どの自治体も「本来国がやるべきもの」「政府の動向を見守る」と責任を回避しようとする。しかし、政府や福島県の顔色をうかがっていては、避難者はじめ住民の健康を守ることはできない。

 支援法第13条は「一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住したことがある者(胎児である間にその母が当該地域に居住していた者を含む)及びこれに準ずる者に係る健康診断については、それらの者の生涯にわたって実施されることとなるよう必要な措置が講ぜられるものとする」とうたう。この規定を自治体レベルで具体化させなければならない。

自治体の独自施策は可能だ

 自然災害では、たとえ国の支援を受けられない段階でも、自治体独自に支援を行うのは当たり前のこと。国に先行して避難者支援の独自施策を講ずることは十分可能だ。

 全国の市民・自治体・議会からの批判で、政府の支援法基本方針は包囲されている。今こそ、自治体要請を強めるとき。福島原発事故被害が拡大している事実を認めさせ、市民の命と生活を守る自治体の責務を問い、担当部署・首長交渉を強力に進めよう。避難者とともに、放射能健康診断や医療無料化、保養プログラム助成を要求しよう。意見書決議や議会会派の新年度予算要求への反映を迫り、具体的施策を実現させよう。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS