2015年04月03日発行 1373号

【原発事故4年「本当のことが知りたい」に応え/小児甲状腺がん117人うち87人が手術/あらゆる健康被害への対策が急務】

 原発事故から4年。福島県民健康調査は2巡目に入って小児甲状腺がんのアウトブレイク(異常多発)はますます明白となり、多様な健康被害が顕在化している。だが、政府・東京電力・御用学者ばかりでなく、原発に反対する科学者の中にも今も放射線の影響を否定する見解がある。被曝地で講演会や健康相談を行っている医療問題研究会高松勇(小児科医)さんに改めて放射線被害の現状と課題について聞いた。(3月17日、まとめは編集部)

 ――福島をはじめ放射能汚染地域でどんな健康被害が起きているのでしょうか。

 福島の現状をお話しします。県民健康調査2巡目の結果(14年12月末時点)が2月に発表されました。1巡目検査の109人に加え2巡目(1次検査受診率48%)で8人、合わせて117人に小児甲状腺がんが見つかり、うち87人が手術を受けています(表1)。



 手術例について福島県立医大は「がんの過剰診療(必要のない手術)ではないか」との指摘に、全国共通の基準で行ったもので過剰診療ではないと反論しています。発見数が多いのは将来見つかるであろう小さながんを早く見つけたからだと言い訳していたのですが、手術の必要性については同じ基準で行ったと言います。そうであれば、手術数について福島と全国平均を比較することに異論はないはずです。

 国立がんセンターの症例すべてが手術をしたものとみなしてもなお、福島は全国平均の20倍から30倍高くなっています。異常多発であることは間違いありません。小児甲状腺がんはまれな病気で、放射線の影響で発症することははっきりしています。「原発事故による小児甲状腺がんの異常多発」が否定されると他の健康被害も放射線の影響を否定されてしまいますから、決してあいまいにはできない重要なところです。

 甲状腺がん以外にも健康被害が起きています。

 チェルノブイリ事故による放射線の影響を解析したドイツの生物統計学者ハーゲン・シェアブ氏が日本の雑誌『科学』(14年6月号、岩波書店)に福島原発事故の影響について論文を出しています。自然死産数と乳児死亡数を合算した死亡率について厚生省の人口動態調査を基に解析したところ、事故から9か月後(11年12月)に放射能汚染の高い県(茨城・福島・宮城・岩手の4県)で急増しています(図)。事故から9か月の妊娠期間を経て死亡率が上昇しており、原発事故で生じた影響を示しています。

 同様の分析を医問研の仲間が行いました。福島周辺7県(福島、岩手、山形、宮城、茨城、栃木、群馬)の周産期死亡(妊娠満22週以後の死産に生後7日未満の早期新生児死亡を加えたもの)のデータを統計分析すると事故後9か月後に急増していました。他の10県(青森、秋田、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、滋賀)ではこうした変化は見られません。

 胎児は細胞分裂が活発で放射線の影響を非常に強く受けます。日常の診療でも妊婦にはレントゲン撮影を避けるのはそのためです。

 もう一つ、放射能汚染地と他の地域を比べた重要な調査があります。事故後1年8か月経った12年11月、福島県双葉町(汚染地・避難)と宮城県丸森町(汚染地・非避難)、滋賀県木之本町(非汚染・非避難)で住民に調査当時(12年11月)の自覚症状と事故以降に発症した病気を聞き取とった調査です。汚染地の双葉町では、眠れない、いらいらしやすい、めまい、月経不順・月経痛、鼻血などの症状を訴える比率は3倍以上という結果になっています。

 WHO(世界保健機関)の報告書(13年2月)は問題点もありますが、少なくとも原発事故により甲状腺がんの他、乳がん、白血病、固形がんが増加すると警告しています。IPPNW(核戦争防止国際医師の会)は3月3日の記者会見で、福島原発事故4年を経過して健康被害が顕在化していると指摘しています。甲状腺がん以外の健康被害があちこちで起こっているのです。

 ――原発事故が原因であることは明白では。

 因果関係を認めない人たちはこう言います。―チェルノブイリに比べ放射線量ははるかに低いから影響が出るはずがない。チェルノブイリでも発症は4、5年以上経ってからだから、今福島で出るはずがない。福島で症状が出ても原発事故が原因であるはずがない―「そんなはずはない」と繰り返します。では原因は何かと問えば、「まだわからない」と原因究明もしないのです。

 甲状腺がんの多発について、環境省などは最近スクリーニング効果とは言わず「網羅的な検査の結果」と言い換えていますが、同じことです。全国平均に比べ福島では20倍から50倍も高い発生率比です(表2)。仮に「網羅的な検査」のためとしても、福島県内で2倍以上もの地域差が出ることの説明がつきません。チェルノブイリでも、汚染されてない地域では網羅的検査を行っても7万人に1人見つかっただけでした。被曝した人を検査するから見つかるのです。





 チェルノブイリで事故直後明瞭な多発が見られなかったのは、最初の数年間は触診検査が主体で症状が出て受診して発見された甲状腺がん患者だけだったからです。超音波検査をしていれば、1年目から無症状の多くのがんが見つかっていた可能性があります。実際、小児甲状腺がんの潜伏期は1年とする報告があります。福島で事故後早期から発症しても不思議ではありません。

 汚染についてもチェルノブイリに比べ少ないとは言えません。チェルノブイリ法が適用される「汚染地域」は1uあたり3万7千ベクレル以上です。この汚染濃度は死亡率、病気の発症率を押し上げる要因になったと報告されています。日本ではどうか。政府が認めた汚染図(文科省航空機モニタリング測定結果)でも、この汚染濃度は福島県の東半分の他、近隣都県の一部に及んでいるのです。その地域の人口は数百万人とも1千万人とも言われています。

 目の前に起こっている事実に向き合い、科学的に分析すれば放射能の影響であることは明らかです。

 ――今どんなことが必要なのでしょうか。

 福島県内の線量の高い地域で講演会や健康相談会をしました。会場では「近隣の医療機関ではまともに聞いてくれない。初めて現実に向き合ってくれる医者に出合った」と歓迎されました。「本当のことが知りたい」。これが住民の強い要求です。

 放射線被害を言うと「住民に不安を与える」と非難する人がいます。しかし真実をごまかしていることが不安にさせているのだと思います。

 裁判所に提出した意見書にも書きましたが、いま必要なことは被曝の軽減策をとることです。福島は避難が必要な地域です。妊娠期間中だけでも避難することは重要です。被曝線量20_シーベルト/年以下を指標とする帰還政策を撤回させなければなりません。土壌汚染や空間線量、食品汚染の情報公開を求め、少しでも被曝を回避するためのノウハウを蓄積し共有していくことが必要です。意見書は放射線被害の損害賠償を求める裁判などにも役立てていただけたらと思います。

――ありがとうございました。

【写真キャプション】

医療問題研究会/小児科医高松勇さん/経産省前テント裁判で、被曝被害の実態を明らかにし緊急にとるべき対策を提言する意見書を東京地裁に提出。意見書は医問研ウェブサイトからダウンロード可能(http://ebm-jp.com/2015/03/ikensho20150201/

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