2016年05月27日発行 1429号

【戦争法発動を許さない/「駆けつけ警護」は武力行使/南スーダンPKO撤退を】

 安倍が強行した戦争法「施行」後、その発動が最も現実味を帯びるのがPKO(国連平和維持活動)部隊による武力行使だ。日本が殺し殺される国にならないために、戦争法廃止とともに、PKO部隊を撤収させなければならない。

任務遂行のために殺傷

 安倍戦争法の一つ、PKO法の改悪で自衛隊は「任務遂行のための武器使用」が可能とされた。

 自衛隊海外派兵の先駆けとなったPKO法では、武器使用は自衛隊自身とその保護下に置かれた人の「正当防衛・緊急避難」でのみ認められていた。以降の各種海外派兵法でも、武器使用の基準は基本的には変わっていなかった。だから、イラク特別措置法による海外派兵時に部隊を率いた現参院議員の佐藤正久は、他国軍と武装勢力の交戦現場に赴き自ら戦闘に巻き込まれることで「正当防衛」の体裁をとって武力行使することを画策した。

 ところが、PKO法改悪では「任務遂行のための武器使用」の一環としていわゆる「駆けつけ警護」も可能とされた。「駆けつけ警護」とは、他国のPKO部隊、難民、人道支援に現地入りしたNGO(非政府組織)を守るという理由で自衛隊が交戦現場に駆けつけ武力行使するもの。

 2015年5月、法案が閣議決定されると、自衛隊は同年7月に成立することを前提に南スーダンPKOでの「駆けつけ警護」の検討に入った。8月の参院予算委員会で、中谷元(げん)防衛相に対し社民党福島みずほ議員は「法案の先取りであり国会軽視だ。なぜ、現在駆けつけ警護が禁止されているのか」と質問。中谷は「憲法から、武力の行使をしてはならないという観点で、国または国に準じる組織と対抗する場合、その可能性が生じるため」と答弁した。

 この答弁に福島議員は「ではなぜ可能とする法改正をするのか」とたたみかけ、「20年以上のPKO活動の実績と国連のPKO等の必要から国または国に準じる組織が出ないという前提で法案に盛り込んだ」との答弁を引き出し、「PKOの実績よりも憲法上の要請を優先すべき」と追及した。

 PKO法改悪による「駆けつけ警護」は、違憲の自衛隊が違憲の海外派兵によって違憲の武力行使をするというそもそもあってはならないことだ。

要件満たさぬ南スーダン

 PKOによる海外派兵の違憲性を覆い隠すために政府が編み出したのが「PKO参加5原則」(注)だ。

 憲法第9条第1項は「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定める。政府はこの国際紛争を「国または国に準じる組織」による紛争に限ることで海外派兵を正当化してきた。つまり福島議員に対する中谷答弁は、「国または国に準じる組織」間の争いでなければ戦闘行為が行われていても「国際紛争」ではなく、したがって、「駆けつけ警護」による武器使用も憲法が禁じる国際紛争を解決する手段としての武力行使に当たらないと強弁しているのだ。

 では、南スーダンの現状はどうか。

 南スーダンの現在の紛争は、大統領を輩出した最大民族であるディンガと副大統領出身の第2民族・ヌエルとの争いとなっている。独立当時の国軍がディンガとヌエルに分裂して争っている。元正規軍同士の争いであり「国に準じる組織」であることは明らかだ。

 自衛隊の内部文書によると、現地の自衛隊では防弾チョッキ・鉄帽着用で射撃許可も下された。イラク派遣部隊が行った「制圧射撃訓練」の必要性が提言されている。

 南スーダンPKO自衛隊部隊は、紛争当事者の成り立ち、現地の状況に照らせば、政府自らが定めたPKO参加5原則の第1要件、第2要件を満たしておらず、撤収しなければならない。現に、海外派兵部隊を国内から指揮する中央即応集団は、現地部隊に対して緊急撤収計画の策定まで指示していた。

 「武力紛争は発生していない」とするのは、安倍や中谷など日本政府のでたらめだ。


PKOも紛争当事者に

 PKO法は1992年に制定された。カンボジア内戦終結に伴い、新憲法制定と正式政府発足までの間カンボジア国内を統治するために設立された国連暫定統治機構の下でのPKO活動に自衛隊を派兵するためのものだ。暫定統治機構による武装解除がすすみ、自衛隊は仮設道路や橋梁建設が主任務とされた。文民警察官が1人犠牲になったが、自衛隊が発砲する事態にはいたらなかった。

 現在のPKOは、当時と比べてはるかに複雑で状況変化が著しい。

 ソマリアでは、内戦当事者の一部が国連部隊に敵対。国連自身が紛争当事者となる事態に至った。昨年はアフリカ連合のPKO部隊が襲撃されて50人以上が死亡し、武装集団に基地を制圧された。

 南スーダンPKOでもPKO部隊展開後、停戦合意は実質的に覆され武力紛争が絶えない。14年には、自衛隊駐屯地がある首都ジュバ市内で武力紛争が発生、自衛隊は宿営地内にこもることとなった。

 このとき、難民1万人が国連宿営地に押し寄せ、PKO司令部は作戦行動の重点を「国づくり支援」から「難民保護」に移した。自衛隊にも「火網の連携」(銃弾をまき散らし敵の侵攻を阻止するための部隊間連携)が要請されたが、「違憲の武力行使」にあたるとして実施されなかった。

 だが改悪PKO法は、武力行使の「抑制」を大幅に緩和し「任務遂行のための武器使用」を認めた。次に同様の事態が起これば「宿営地の共同防衛」として「火網の連携」に参加可能とされる。武器使用基準は軍事機密とされ、戦争法が「施行」された現在、いつ自衛隊PKO部隊が交戦を始めても不思議ではない。

 戦争法廃止とともに、海外派兵中のPKO部隊をただちに撤退させ、武力行使の芽をつまねばならない。

(注)PKO参加5原則

 (1)紛争当事者の間で停戦合意が成立 (2)国連平和維持隊が活動する国や紛争当事者が日本の参加に同意 (3)国連平和維持隊が中立的立場を厳守 (4)以上の条件を満たさなければ撤収できる (5)武器使用は生命防護のため必要最小限とする。このうち1つでも満たさなければ派兵できない。
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