2016年05月27日発行 1429号

【高齢者の深刻な貧困化 元凶は破綻した年金制度 大企業負担増と国民年金の全額国負担を】

急速に進行する貧困

 高齢者の貧困化が急速に進行している。

 全国の貧困率(所得が国民の中央値の半分に満たない人の割合)は2012年に16・1%、ほぼ6人に一人が貧困状態にある。しかし高齢者の貧困率はそれを大きく上回って27・4%(2014年、表1)、ほぼ4人に一人の高齢者が貧困状態にある(注)。

 全国≠ナは年収122万円未満、高齢者≠ナは年収160万円未満を貧困者としており、しかも調査年が2012年と2014年という違いもある。高齢者≠ナは年収基準が全国≠謔闕bュ設定されているのでその分だけ貧困率が高くなる傾向は否定できない。ただそうだとしても160万円という金額は東京都の生活保護基準である月額13万3千円(年収で160万円)をベースとしているので、この額未満の高齢者を貧困者と捉えることには根拠がある。高齢者の貧困率が27%にも及ぶこうした事実を知ると、その高さにあらためて驚かざるをえない。

原因は年金の減少

 なぜ高齢者の貧困率がこれほど高いのか。

 高齢者世帯の所得は公的年金・恩給の割合が68・5%を占めて最も高くなっている(2013年、厚労省資料)。このことから高齢者の生活は公的年金が鍵を握っていることがわかる。ところが近年、その公的年金の支給額が減少し続けていることが高齢者を貧困に追いやる決定的な原因となっている。

 厚生年金の推移をみると、支給額は2003年の16万9千円から2013年の14万6千円へと金額で2万3千円、率で13・6%も減っている(図1)。支給額のピークは1999年の17万6千円であるが、この年と比較すると2013年は金額で3万円、率で17・0%もの減少となる。その結果、月額10万円未満の厚生年金受給者は2013年度末に392万人、受給者総数の25・8%を数えるまでになった(厚労省資料)。支給額が10万円未満ということは年収換算で120万円未満。先にみた122万円未満、160万円未満のどちらに照らしても明らかな貧困者ということになる。

 年金支給額のこうした削減が高齢者の生活に大打撃となったことを指摘しておかねばならない。

 もともと日本の年金制度は「家族扶養を前提とした従来型の社会福祉モデル」(藤田孝典『下流老人』)といわれる。つまり日本の年金制度は老後に家族の扶助を受けられるという前提で成立していた。しかし一人暮らし高齢者の増加や子どもと同居する高齢者割合の減少などによって、家族が高齢者を扶助する伝統は崩壊してしまった。家族扶助が得られないとなると、年金支給額が増えない限り高齢者の家計は回らない。

 だが、この間年金支給額は大きく削減された。家族扶助がなくなり、その上に年金支給額が減らされるダブルパンチの下では、高齢者の生活はずたずたになるほかはない。「早く死にたい」「もう生きていたくない」という高齢者の悲鳴が全国各地で巻き起こっている。

年金支給額の増額を

 高齢者の貧困化をストップするには年金支給額を増額しなければならない。しかしそのためには年金に対する国と企業のそれぞれの負担の低さという年金制度の抜本的な改革が必要である。

 社会保障財源の対GDP(国内総生産)比率を国際比較すると、日本は特に西欧諸国と比較して公費負担と事業主負担の割合が低い(厚労省資料)。そして国と企業の負担を低くしたままで高齢者増に対処しようとするから、年金保険料の値上げと年金支給額の削減をしなければ、つまり利用者にすべての負担をかぶせなければ年金財政がもたなくなるのである。

 年金制度の改革は基本的に次のようでなければならない。

 第一に、国民年金を全額国負担とし、すべての高齢者がこれを最低保障年金として受給できるシステムへと変える。財源は消費税ではなく法人税と富裕層への増税でまかなう。

 第二に、企業負担、とりわけ大企業の負担を増やし、厚生年金保険料の引き下げと年金支給額の増額を図る。

 これらによって高齢者の年金支給額が増えれば高齢者の貧困化はストップできる。反対に、現行の国負担と企業負担に手をつけないままで保険料をアップし支給額を削減するこれまでのやり方を続ける限り、高齢者の貧困化を阻止することは不可能である。

(注)厚労省は国全体や子どもの貧困率は3年ごとに公表しているが、高齢者の貧困率については公表していない。表は2014年の国民生活基礎調査(厚労省)をベースに立命館大・唐鎌教授が独自に集計したものである。

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