2016年05月27日発行 1429号

【戦争する国は障がい者を切り捨てる/新立法の約束守れ】

衆院で可決強行

 障がい者を切り捨て続ける障害者総合支援法等「改正」案が5月12日、衆院本会議で自民・民進・公明・おおさか維新の賛成で可決された。同法は2013年4月施行。3年後見直しの規定が盛り込まれており、厚労省は昨年12月、社会保障審議会障害者部会で報告書をまとめた。それに基づく「改正」である。

 可決された「改正」案は問題だらけだ。(1)障害の範囲を原因となった疾患名(医学モデル)で定めるのではなく、福祉の対象(社会モデル)とするよう求めてきたが、無視(2)収入認定の際、家族などは除外し障害者本人だけで認定することも否定(3)障害程度区分制度を含めて支給決定のあり方は、手つかずで維持(4)介護保険優先原則の廃止、障害の特性を配慮した選択制の導入を求めてきたが、拒否(5)地域で自立した生活を営む基本的権利(障害ゆえに生命の危険にさらされない権利、自らの意思に基づいてどこで誰と住むかを決める権利など)の保障規定は何一つ盛り込まれず(6)自立支援医療の低所得者無償は反故(ほご)に、など。

 当事者が取りやめを求めてきた「個人の費用負担=応益負担制」は全く見直されなかったばかりか、65歳以上の障がい者は介護保険制度に吸収され、障がい者でなくなってしまうおそれがある。

政府との「合意」裏切る

 当事者にとっては、2010年の政府との合意に反する約束違反の「改正」案である。障害者自立支援法(05年)は障害を障がい者個人の責任に帰する応益負担原則に立ち、人間としての尊厳や地域での生活の権利を否定するもので憲法違反だとする訴訟が、08年以降全国14地方裁判所で争われた。当時の鳩山首相は124人の違憲訴訟原告を官邸に招き、協議を重ねて「自立支援法は廃止し、新法をつくる」との「基本合意」を公文書で交わした(10年4月21日)。それを受け、原告は訴訟を取り下げた。

 以後、首相のもとに障がい者も参画する「制度改革推進会議」などが設置され、基本合意の実行と障害者権利条約(批准は14年1月)に沿った国内法整備を念頭に「骨格提言」(11年8月)がまとめられた。ところが12年、骨格提言は踏みにじられ、障害者自立支援法の一部改正として障害者総合支援法成立にすり替えられた。当事者ははしごを外されてしまった。

 現在の総合支援法に基づくサービスを利用している人の約9割は利用者負担がない。しかし、65歳になって介護保険利用に移った人の1か月の平均負担額はそれ以前の9倍、7183円に増えている(15年厚労省調査)。厚労省は「65歳を超えて介護保険サービスを利用する場合、一定の所得以下であれば利用者負担(介護報酬の1割が原則)を減らす仕組みを設ける」としているが、「負担軽減の財源を捻出するために他の費用を削るわけではない。改正によって財政は膨らまない」と、全体を底上げする施策やその財源確保の手立ては全く考えていない。

 政府の障がい者軽視姿勢の反映が、4月に施行された「障害者差別解消法」で策定が義務付けられた対応要領の進捗状況だ。全国自治体のわずか21%しか策定していない(内閣府アンケート結果)。

3千人が声上げる

 「2010年4月21日を忘れない」と4月21日、日比谷野外音楽堂に3千人の当事者・支援者が集った。全野党国会議員が出席し、民進党からはおわびと決意が示されたものの、自公は欠席。当事者からは「月8万円の障害者年金で医療費負担はきつい」「いつまで家族に面倒見てもらえと言うのか」「65歳を過ぎたら障害がなくなるとでも言うのか」「『厳しい時代。障がい者だけ例外ではない』と言う審議会委員は許せない」など怒りの声が上がった。参加者は集会後、「約束守れ!」のプラカードをかざしてデモ行進した。

 障がい者を公然と切り捨てる。これが戦争する国のあり方だ。



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