2016年05月27日発行 1429号

【未来への責任(200)戦後71年目の遺骨収集推進法(下)】

 国会審議が緊迫した状況を迎えた3月16日、東京地裁でノー!ハプサ(靖国神社から韓国人軍人軍属の合祀取消、霊璽簿等からの姓名抹消)訴訟の口頭弁論が開かれた。意見陳述に立ったのは、遺族の鄭鎮福(チョンジンボク)さん。3900名中3700名が戦死したという激戦地マーシャル諸島のクェゼリン島にお父さんが動員され、戦死した。クェゼリン島からは昨年、15体の遺骸が収容されているが、その中に鄭さんのお父さんの遺骸がある可能性も考えられる。

上げられる鑑定精度

 裁判後、戦没者遺骨DNA鑑定に関する院内集会が開催された。「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんから沖縄での遺骨収集の報告を受け、続いて「文系でもわかるDNA鑑定」と題してボランティアで協力を申し出ている「NPO遺伝子情報解析センター」の研究員の方から、様々な手法を用いれば鑑定の精度を上げることは十分可能であることを学習し、従来の厚労省の主張を突き崩す根拠となる内容が共有化された。

 院内集会には沖縄出身議員の秘書や川田龍平参院議員が参加。川田議員は「戦争によって奪われた遺族の時間を取り戻すためにも最善を尽くしたい」と厚労委に向けての決意を述べた。3月22日の厚労委で川田議員は、民間人の遺骸の取り扱いとDNA鑑定の手法について質問。厚労省は「国内で一般人を巻き込んだ戦闘が行われた沖縄について、軍人、民間人の別なく遺骨収集を実施しており戦闘に巻き込まれた民間人も対象になる」「遺族が高齢化していること等を踏まえ、国会での議論や関係団体等からの要望も踏まえ、議論を加速し、まずは部隊記録等が残っているある程度戦没者の特定ができる沖縄について実施する方向で検討している」と、事業を沖縄から実施していくことを答弁していた。

歯にこだわる厚労省

 DNA鑑定の検体について厚労省が「歯」からの抽出に限るとしている点への川田議員の指摘は重要だ。「たとえ一本の腕の骨、足の骨であっても遺族にとってはそれが父であり、兄であり、母であるかもしれない。東日本大震災で見つかった大腿骨一本が、DNA鑑定の結果、大震災の犠牲者の遺骨と判明して遺族に返還された例がある。骨一本返ってきたことが、遺族には大切なこと。これを70年間待ち望んでいる人たちがいる。韓国では、朝鮮戦争の犠牲者のDNA鑑定を大腿骨などから行っていると聞く。沖縄県が焼骨せずに保管している遺骨について、腕や足などの四肢の骨からもDNA採取できるかどうかの試験的な事業を実施すべき」と追及した。しかし、厚労省は「歯以外でもDNA鑑定をするほど科学的な知見の集積は今の日本でされていない。韓国を含め、どのようなことが科学的に証明可能なのかということをよく考えていく」と未だに「歯」以外の検体には消極的である。

 すべての遺骨からDNAを採取し、国籍にかかわらず希望するすべての遺族から検体を採取して照合させていく取り組みのいよいよ最終段階、最後の踏ん張りどころである。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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