2016年05月27日発行 1429号

【ドクター林のなんでも診察室 効かない抗インフルエンザ薬再論】

 インフルエンザが4月末までも続いた今シーズンは例年より多数の人がかかったようです。ところで、抗インフルエンザ薬が効かないことは、このコラムでも再三書きましたが、製薬会社の影響下のマスコミや医者に押し切られ、服用した読者も多かったようで、残念です。

 まず、抗インフルエンザ薬は、肺炎、脳炎、入院、死亡など重症化を防げません。世界各国に「備蓄」をさせるため、重症化を防げるとしたデータが嘘だったことは今や明らかです。

 それでは、「早く治る」とか「症状が軽くなる」はどうでしょうか。年間160億円以上で販売額1位の「イナビル」は、発売前の臨床試験の方法が怪しい上、海外での試験で全く効果なしとの結果が出て、欧米では発売できていません。元祖タミフルやリレンザも、大人では1日も症状を短縮できません。

 日本小児科学会でさえ、私たちの要望書への回答で「軽症患者全例を対象とした、抗インフルエンザ薬の積極的推奨は当学会としても支持されないと考えます」としています。

 無効なイナビルの薬価が大人で4280円です。頭痛などインフルエンザ等の症状を改善するアセトアミノフェンは5日使っても147円(商品名「カロナール」の場合)です。不要な薬にこのように莫大な金がつぎ込まれています。

 ほとんどの人に効き目のない高血圧の薬が年商8900億円、同様の脂質代謝異常の薬に4千億円弱などです。最近急速に伸びてきているのが、全部で9600億円強を売り上げる抗がん剤で、中でも一剤だけで年商875億円(以上、2014年推計)の「アバスチン」は、延命も生活も改善できず、単にがんの大きさなどを見かけ上「改善」するだけです。

 医療費40兆円のうち約10兆円が薬剤費に使われ、その1人当たりの額がOECD(経済開発協力機構)中2位なのに、全医療費は14位で、人口あたり医師数は32位(2013年)です。

 最近、この薬剤費を極端に上げる薬が認可されました。それが、世界で初めて日本の小野薬品に認可され健康保険の財政を破綻させると言われている抗がん剤で、年1兆7千億円を超えると財務省は試算しています。これまでの薬と比べ、「約3か月間延命する」としてこんな破格の値段がついたのですが、がんを治すものでなく、また生活の質を改善できるのか、そもそもその延命が本当かも怪しいのです。

 医療費削減を強行する一方で、このような薬に法外な値段をつけて、製薬大企業に莫大な利益をもたらすのが安倍内閣の政策なのです。これに反対し、不要な薬剤費を、医療・介護の人件費にまわすべきです。

     (筆者は、小児科医)
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