2016年06月24日発行 1433号

【未来への責任(202)すべての遺骨を遺族のもとへ(上)】

 遺骨問題について、2月から5月にかけて行われた参議院厚生労働委員会での論争は画期的で、韓国でも注目されました。

 韓国の『ハンギョレ新聞』は、2月18日参院厚労委の津田弥太郎議員(民主党=当時)の質疑と塩崎恭久大臣の答弁をこう報道しています。「津田議員は『去る大戦で多くの韓半島出身者が旧日本軍兵士・軍属(軍務員)として各地で戦死した。この問題を補償問題や慰安婦問題と連係せずに、また費用を適切に韓国側が負担するという前提の下、遺骨のDNA鑑定に対する韓国側の要請が来た場合、日本政府は拒絶してはいけない』と指摘した。これに対し塩崎大臣は『韓国政府から具体的提案があればこれを真剣に受け止め、政府の中で適切な対応を検討する考えだ』と答えた。日本政府が韓国人遺族たちのDNA鑑定要求に協力することができるという方針を明確な形で明らかにしたのだ。この作業が円滑に進行されれば、日本政府が発掘する第2次世界大戦犠牲者の中に一緒になっている韓国人の遺骨が70年ぶりに遺族のもとに戻ることができるようになる」

 『韓国連合ニュース』は、法律は「(収集対象遺骨を)『我が国(日本)戦没者』に限定することによって日帝強制占領期間に日本軍や軍属で動員されて戦死した朝鮮人犠牲者は適用対象から排除された」と批判しながらも、塩崎大臣の発言については「ここを突いて遺族の希望を実現していくしかない」と韓国政府に積極的対応を促しています。

 韓国・太平洋戦争被害者補償推進協議会は、総選挙後の国会の人事配置が決まる6月に、外交委員会に新しく配属される国会議員とともに政府交渉を行う準備を進めています。今まで動きのなかった韓国政府も、強制連行被害者遺族の遺伝子銀行の設立に向けた予算計上を公表するなど、日本政府への対応策を取り始めました。

 9年間の遺骨収集事業は沖縄から始まります。しかし、厚労省は歯のある頭蓋骨についてはDNA鑑定の対象としながら、沖縄が独自に保管する四肢骨について「個体性のないもの、DNA鑑定に必ずしもつながらない骨」とし、焼いてしまおうとしていました。また、沖縄県の住民の鑑定も行われるかどうかはっきりしていませんでした。沖縄戦の最大の犠牲者である沖縄県民を鑑定から外したり後回しにしたりして、本当に韓国人遺族を含む被害者に寄り添う事業になるはずがありません。足や腕の骨を、個体性がないなどと言って勝手に焼いてしまえば、沖縄だけでも600人の遺骨が日韓の遺族に返される道は閉ざされます。沖縄で歯のある頭骸骨となれば87件の遺骸しかないのです。沖縄での実施に当たり、この論争に負ければ、アジア太平洋地域全体の遺骨鑑定の事業が右へならえとなってしまいます。

 私たちは参院厚労委の審議に際し、すべての沖縄出身国会議員に、沖縄県民を鑑定呼びかけに入れること、四肢骨も鑑定することを厚労省にあらゆる手段で訴えてもらえるよう要請しました。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会・上田慶司)

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