2016年07月08日発行 1435号

【アベノミクスは格差・貧困の元凶だ 命を奪う新自由主義 参院選でノーの審判を】

 参院選がスタートした。安倍首相は「アベノミクスのエンジンをふかす」と叫んでいる。だが、1%のためのこの新自由主義的経済政策こそ格差と貧困を拡大した元凶だ。放置すれば生活破壊を深刻にし命さえ奪う。アベノミクスにノーの審判を下そう。

 新自由主義的経済政策は経済分野だけでなく健康にまで影響を与えている。公衆衛生学の研究は、「緊縮財政の副作用として、不況の長期化以上に深刻なのが健康被害」と実証している。情報処理推進機構が行った意識調査(2015年12月)は、新自由主義が蔓延する社会を象徴している。その調査報告書は、「悪意の投稿経験があるパソコン利用者は約4分の1もいる」ことを明らかにした。

 新自由主義政策を全面推進するアベノミクスは、すでに失敗している。にもかかわらず安倍政権は「アベノミクスは確実に『成果』を生み出しています」(自民党政策パンフレット)と自賛し、泥沼に向かって突き進んでいる。

 一方に円安と株高によって利益をかすめとっているグローバル資本と富裕層の一群がいる。そのため格差と貧困が拡大し、それはそのまま生活破壊につながっている。アベノミクスの失敗とその原因を明らかにし、格差と貧困の拡大にも同じ原因が横たわっていることを見ていこう。

アベノミクスは失敗

 アベノミクスは、市民の現実生活に直面すればすぐさま化けの皮がはがれる。例えば「保育園落ちた」のブログが引き金となった待機児童問題がある。保育園に入れないから活躍したくてもできないではないか≠ニいうこのブログの訴えは、アベノミクス第二ステージ「ニッポン一億総活躍プラン」のまやかしを批判したものだ。鋭い指摘に触発された人が続々と声を上げたため、待機児童問題が一気に社会問題化したのである。

 アベノミクスへの評価を世論調査から見よう。昨年12月28日と今年2月28日の変化を日本経済新聞の調査で見ると、「評価せず」が44%から50%に増え、「評価する」が38%から31%に減っている。他紙の調査でも、「評価せず」57%(2/26読売)、同じく54%(4/19毎日)と過半数を超えている。

 以上の数字は充分に重い。加えて、共同通信の3月下旬調査では「アベノミクスによる景気回復の実感なし」が81・4%であった。この数字こそ実際の世論に近いだろう。市民はアベノミクスの失敗をはっきり感じとっている。

 不思議なことに、アベノミクスの推進者たちがアベノミクスを否定する発言をしている。安倍首相をはじめ推進者たちは、大企業などの利益が増えれば富が全体にしたたりおちる「トリクルダウン説」を強調してきた。だが、安倍政権のブレーンである竹中元総務相は「したたりおちるなんてありえない」とテレビ番組で公然と否定した。

 また、黒田日銀総裁は2月23日衆院財務金融委員会で、「マネタリーベース(日本銀行が供給する通貨)そのもので直ちに物価、あるいは予想物価上昇率が上がっていくということではない」と答弁した。アベノミクス第一ステージの第一の矢「大胆な金融政策」がめざしたのは、2013年以降の2年程度をめどに2%の物価上昇率≠ナあり、そのため日銀は量的質的金融緩和で通貨の供給を増やしてきた。黒田答弁は、自ら実行してきた政策を否定するものだ。失敗を認めたことに他ならない。

 つまり、現実を見れば推進者たちもアベノミクスが成功しているとは口にできない。ところが、安倍首相は今後も「アベノミクスのエンジンを最大限ふかしていく」と言い、消費税増税延期でごまかしながらアベノミクスが参院選の争点だと大見得を切った。まさに茶番劇である。

 金融政策で掲げた2%の物価上昇率目標は実現されず、実現時期が4度も先送りされている。マイナス金利策が導入されたが、これさえうまくいっていない。もう打つ手はないにもかかわらず、安倍政権はいずれうまくいくはず≠ニ思い込み、さらに同じ過ちを繰り返そうとしている。これは労働者・市民の生活破壊をいっそう進めることだ。アベノミクスは即刻やめさせなければならない。

失敗の根本は賃金低下

 では、なぜアベノミクスは失敗したのか。

 デフレからの脱却をめざすとしてアベノミクスは打ち出された。貨幣数量を増やせばデフレが解消するとして、安倍政権は日銀に大胆な金融政策を迫り、それを第一ステージ第一の矢とした。だが、デフレは貨幣数量の問題ではなかった。「供給力が過剰な中で、需要が不足していたことがデフレをもたらした要因」(厚生労働省『2015年版 労働経済の分析』)と政府自身も認めている。この状態は1990年代後半から現在まで続いている。安倍政権はデフレ不況の原因を見誤った。だからアベノミクスは失敗せざるをえなかったのである。

 さらに、なぜデフレ不況が続いているのか、を問わなければならない。

 需要不足の主な原因は消費需要不足にある。こうした状況を作り出したのは賃金の継続した下落である。2000年を100として2013年が92・2だ(図表1)。落ち込みも大きい。賃金が下落したのは非正規雇用が増えたためだ。「雇用不安定化と賃金低下→消費低迷→景気悪化→デフレ不況」という流れが作られている。ここに消費税増税が追い打ちをかけ、生活をますます苦しくしている。



 そうである以上、解決の糸口は明快だ。問題の発端が「雇用の不安定化と賃金低下」なのだから、「雇用の安定と賃金引き上げ」をまず実行すべきなのである。

格差と貧困の拡大

 アベノミクスによって恩恵を受けたのは、1%のグローバル資本と富裕層だけである。99%の市民は「雇用の不安定化と賃金低下」の被害をこうむっている。そのため相対的貧困率(注)と子どもの貧困率が上昇している。6人に1人が年収122万円(2012年の貧困線)以下の所得しか得ていないのだ。

 とりわけ子どもの貧困率では、累進課税や社会保障で所得格差を緩和するはずの所得再分配が行われた後に貧困率が高くなっている(図表2)。OECD(経済協力開発機構)諸国では日本だけの現象だ。これは所得再分配が全く機能していないどころか、逆に格差を拡大させていることを示す。こんな異常事態はすぐさま解消させるべきだ。



 他の指標も格差と貧困の拡大を明確に示す。貯蓄なし世帯の増加、就学援助の増加、国民健康保険の滞納世帯の高止まり、児童虐待の増加など、市民生活のあらゆる面で問題が深刻化している。社会の土台を支える雇用と賃金が切り崩されているからだ。

 なぜ格差と貧困が起こるのか。「資本が蓄積されるにつれて、労働者の状態は、彼の受ける支払いがどうであろうと、高かろうと安かろうと、悪化せざるをえない」とすでに19世紀にマルクスは見抜いていた。最近では、フランスの経済学者ピケティが20世紀後半からの急激な格差拡大の事実と要因をデータ解析で明らかにしている。つまり、資本主義競争の激化と搾取・収奪の強化に原因は求められるのである。

 対抗策は明らかだ。

 アベノミクスは百害あって一利なし。すぐさまやめさせめなければならない。そのために安倍政権に退陣してもらう。そして、雇用の安定と賃上げ、社会保障の拡充で生活を根本的に改善させる政策へ転換させる。財源は、軍事費の削減から廃止、不公平税制の解消をはじめ適正な課税で十分に生み出せる。これは同時に、憲法が規定した生存権や社会権を生活の中に活かすことでもある。

 参院選でこのアベノミクスを推進する安倍政権にノーの市民意思を突き付けよう。

(注)所得が全人口の中央値の半分(貧困線)未満の人の全人口に占める割合

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