2016年07月29日発行 1438号

【みるよむ(406) 2016年7月16日配信 イラク平和テレビ局in Japan イラクの湿地帯を世界遺産に】

 イラク南部の湿地帯は、世界でもっとも重要な湿地生態系のひとつとされている。今、この湿地帯をユネスコの世界遺産に登録する動きが進んでいる。2016年5月、サナテレビは、市民にこの取り組みにかける思いを聞いた。

 イラク中心部を流れるチグリス・ユーフラテス川の下流は、世界最古のメソポタミア文明の発祥地であるとともに、豊かな生態系の広がる湿地帯である。サナテレビのサジャド・サリームさんによると、湿地帯は南部の特にバスラ州とメイサン州、ディカール州に広がっている。

 世界遺産登録への動きに、メディア関係者の女性は「イラク市民は湿地帯が世界遺産に入るのを支援しなければならない」と熱い期待を寄せる。別の市民も「魚も鳥も豊かにいます。世界のどこにもいない希少種の鳥がいる」と語る。

 映像で、エコツアーの人びとがこの豊かな自然の中に入っていく姿が紹介されている。まだ受け入れ態勢が十分に整っていない中で、アラブ諸国を除いても欧米などから訪れる人は毎年1万6千人を超えるという。世界遺産登録が実現すれば、世界中から訪問者がもっと増えるだろう。

 湿地帯を保護する自然環境の面でも、この地域の古代文明の遺跡を含めた文化的な面でも、豊かになっていきたいという願いが発言から伝わってくる。

環境破壊に抗する

 市民の湿地帯にかける思いには、社会的な背景も強く影響している。かつてサダム・フセイン政権時代に、「反政府勢力の拠点になっている」として川の上流をせき止め、湿地帯を干上がらせて大幅に減少させてしまう環境破壊が行われた。この地域に住む多数の住民は故郷を離れ、難民化してしまった。

 2003年以後のイラク戦争と占領、現在の「イスラム国」の暴力、米国などの軍事介入は、古代遺跡を破壊し、自然環境も悪化させてきた。だからこそ、世界遺産への登録を急ぐ必要がある。

 こうした取り組みは、南部の湿地帯の自然を守り人びとの生活を回復する活動であるとともに、「イスラム国」による文化や自然環境の破壊に対抗する市民の闘いでもある。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS