2016年07月29日発行 1438号

【安倍応援団 日本会議とは何か/素性を隠し、草の根改憲策動/正体は宗教右翼の統一戦線】

 改憲策動が本格化しようとしている中、安倍政権の強力な支持母体である右翼組織に注目が集まっている。その名は日本(にっぽん)会議。安倍政権が進める憲法改悪や戦争国家づくりを「草の根運動」によって下支えしている団体だ。最近、同会の研究本が相次いで出版され、その実態が明らかになってきた。安倍応援団の危険な素顔をみていこう。

司令塔隠ぺい工作

 日本会議の田久保忠衛(たくぼただえ)会長(杏林大名誉教授)が7月13日、日本外国人特派員協会で記者会見を行った。日本会議は、(1)「緊急事態条項」の創設(2)憲法24条の改変(「家族保護条項」の導入)(3)9条改定=自衛隊の国軍化、を求めている。田久保は参院選の結果を「絶好のチャンスを迎えた」ととらえ、改憲推進の運動を加速させる意欲を示した。

 これらは会長としての公式コメントであり、特に驚くまでもない。注目すべきは、日本会議の個別の運動方針について尋ねられた際の田久保の反応にある。いわく「具体的にどういう施策をしているか、お恥ずかしながら掌握していない」。何と、「どうなんでしょう」と記者に逆質問するありさまであった。

 日本会議は国内最大の右翼団体と言われている。超党派の議員連盟「日本会議国会議員懇談会」の名簿には自民党幹部の名前がずらりと並ぶ。安倍晋三首相と麻生太郎財務相は「特別顧問」。安倍内閣の閣僚では20人中13人が同議員懇のメンバーだ。この事実をみても現政権に強い影響力を持っていることがわかる。

 そんな組織のトップが運動方針を「掌握していない」とは…。日本会議の秘密はここにある。同会が各界の著名人を役員に迎えたり、関連団体の代表に据えたりしているのは、本当の司令塔を隠すための偽装工作なのだ。

 そうした謎めいた組織の実態に切り込む研究本のさきがけとなったのが、菅野完(すがのたもつ)著『日本会議の研究』(扶桑社新書)である。日本会議は同書に出版停止の圧力を加えたが、それが話題となり、12万部を超えるベストセラーになった。以下、同書にしたがって日本会議の「コア部分」をみていくことにしよう。

元「生長の家」人脈

 日本会議の細密な動員力は、神社本庁をはじめ、霊友会や祟教真光(すうきょうまひかり)など右派的な宗教団体によるところが大きい。いわば宗教右翼の統一戦線なのだが、これらを束ねマネジメントする指導者層は「生長の家」の旧学生グループ(日本青年協議会)が担ってきた。

 現在の「生長の家」は政治活動から完全に撤退しており、日本会議を批判する声明を出しているほどだが、かつては典型的な宗教右翼であった。戦中は戦争遂行を賛美して教勢を拡大。戦後も「明治憲法復活」や「占領体制打破」をスローガンに積極的な言論活動を展開してきた。

 60年代には「生長の家」学生会総連合(生学連)を結成し、学生運動と対峙してきた。その活動家たちが今、日本会議の中枢にいる。たとえば、事務総長として組織実務を取り仕切る椛島(かばしま)有三だ。彼は長崎大学において学生自治会を左派から奪取した立役者の一人である。現首相補佐官の衛藤晟一(えとうせいいち)も椛島と同時期の生学連活動家(大分大学)だ。

 安倍晋三の筆頭ブレーンと言われる伊藤哲夫(日本政策研究センター会長)や安保法制を合憲と言い張る憲法学者の百地(ももち)章(日大教授)、「親学」運動の提唱者として知られる高橋史郎(明星大学教授)らもそうである。彼ら「生長の家」人脈が日本会議の実務面や理論面を担い、数々の右派ムーブメントを主導しているのである。

改憲一千万人署名

 「左翼打倒」の闘いに血道を上げてきた椛島たちは、敵に学ぶかたちで大衆運動のノウハウを身に付けたという。支持者を集めミニ集会や学習会を開き、署名集めや街頭宣伝で運動を広げ、地方議会への請願・陳情を繰り返しながら、中央の政府・国会に圧力をかけていく。その運動スタイルは市民運動のお手本と言ってもいい。

 教科書攻撃、反ジェンダーフリー、「慰安婦」バッシング、そして改憲運動がそうである。今年5月末現在、「国会に憲法改正の早期実現を求める地方議会決議」が33都府県と53市区町村で採択されている。また、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」なるダミー組織を使い、改憲賛成の1000万人署名活動を行っている。この署名集め、本当の目的は「憲法改正」の国民投票をにらんだ賛同者名簿づくりだと言われている。

 素性を隠し、草の根改憲運動を展開する日本会議。連中は憲法をどう変えるか具体的に語らない。目指す方向性は自民党の改憲草案と同じなのに、それを隠して署名を集めている。なぜか。むきだしの軍国主義や反人権思想が世間一般に受け入れらないことをよく知っているからだ。

 逆に言うと、日本会議という安倍応援団の実態・正体を多くの人びとに知らしめることが改憲阻止の鍵となる。ドラキュラの退治法と同じだ。暗がりから引きずり出し、白日の下にさらすことである。     (M)

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