2016年07月29日発行 1438号

【ヘイトスピーチ根絶をめざして/解消法成立は出発点 人種差別撤廃基本法へ】

 ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)が先の国会で成立した。

 解消法はヘイトスピーチ根絶につながるのか。外国人人権法連絡会が7月2日、都内で開いた集会で、弁護士の師岡康子さんは「政府はこれまで『新法を作るほど深刻な差別はない』と言ってきた。それに対し、この法律は前文で被害者の『多大な苦痛』や地域社会の『深刻な亀裂』を認め、緊急対策としての法制定が必要とした。差別と闘ってきたマイノリティの人びと、多くの運動の力が、反差別法整備の出発点をすえた」とその意義を強調した。

「適法居住」の問題点

 しかし、与党提出の法案には重大な問題があった。対象者を「日本以外の国・地域の出身者またはその子孫で適法に居住するもの」に限定する定義をおいたことだ。在留資格なく日本に滞在する外国人や難民申請者、被差別部落やアイヌ、沖縄の人びとなど国内のマイノリティは、保護の対象外となる。09年4月埼玉県蕨(わらび)市内で、不法入国を理由に強制退去処分を受けたフィリピン人カルデロンさん一家を「日本から叩き出せ」と叫んで練り歩く在特会のヘイトデモがあったが、これも許されてしまう。

 「適法居住」要件は、国連人種差別撤廃委員会が示した「差別に対する保障は出入国管理法令上の地位にかかわりなく適用される」との勧告に反し、差別を解消する法律の中に差別を助長する要素を持ち込む。こうした批判を受けて参院法務委員会は法成立後に異例の決議を行い、「法律は人種差別撤廃委員会などの要請をも踏まえたもの。ヘイトスピーチの被害は在日コリアンだけでなく、難民申請者、オーバーステイ、アイヌ民族など多岐にわたる。私たちはあらゆる人間の尊厳が踏みにじられることを許さない」と宣言した。

 師岡さんは「立法者の意思が『在留資格の有無にかかわらず差別は許されない』という点にあることは明確で、自治体で条例を作る際も『適法居住』要件を入れさせないことが重要。この要件を削除する法改正も要求しなければならない」と指摘する。

ヘイトデモ中止の効果

 とはいえ、解消法成立の効果は早くも現れている。川崎市長は5月31日、ヘイト集会のための市の公園使用申請を不許可に。横浜地裁川崎支部も6月2日、ヘイトデモ禁止の仮処分を出した。いずれも理由の中で解消法の制定に言及。「不当な差別的言動から市民の安全と尊厳を守る」(市長)「在日外国人の感情・信念は個人の尊厳の最も根源的なもの。他の者が侵害してはならない」(地裁支部)としている。6月5日、別の公園を出発したヘイトデモは、市民700人以上が抗議する中、10メートル進んだだけで中止に追い込まれた。

 今後の課題は、禁止条項を含む人種差別撤廃基本法、自治体での人種差別撤廃基本条例の制定だ。師岡さんは「解消法には、具体的に何をするか書かれていない。放っておくと何もしなくて済む“ザル法”。国・自治体に具体化を、とくに自治体に対しヘイト団体の公共施設利用制限や被害者のケア、職員の差別撤廃教育といった具体的な施策、条例づくりを要求していこう」と呼びかけた。

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