2016年08月19・26日発行 1441号

【相模原 障がい者殺傷事件/背景に弱者切り捨ての新自由主義政策/時代を象徴するヘイトクライム】

 神奈川県相模原市の障がい者施設で入所者19人が元職員の男に刺殺される事件が発生した。容疑者は「障がい者は死んだ方がいい」と語り、重度の障がい者を選んで殺傷した。差別感情にもとづく憎悪犯罪=ヘイトクライムであることは明らかだ。障がい者を「生きる価値がない」とみなす排除の思想。その発信源は安倍政権が推進してきた新自由主義政策にある。

ナチス化する日本

 「意思疎通ができない重度の障がい者は生きていてもしょうがない」「国の税金の無駄だ」「自分が抹殺事件を起こせば法律が変わるきっかけになる」「障がい者の大量殺人は日本国の指示があれば、いつでも実行する」

 これらの発言が示すように、容疑者の元職員は「自分は正しい」との確信を抱いており、障がい者抹殺計画を実行すれば国に喜んでもらえると考えていたふしがある(衆院議長に渡そうとしていた手紙の文面を参照)。おぞましい話だが、主観的には正義感と「愛国心」にかられて実行した計画殺人といえよう。

 彼は措置入院中だった今年2月、「ヒトラーの思想が2週間前に降りてきた」と病院の担当者に話していた。ヒトラー率いるナチス・ドイツは障がい者を生きる価値がないと決めつけ、「国家的安楽死」と称して大量に殺害したことで知られている。

 この抹殺指令は第二次世界大戦勃発の直前に発令された。つまり、総力戦体制づくりの一環として、戦争遂行や生産活動に寄与できない障がい者の殺害を命じたのである。国家のお荷物になるだけの者を生かしておく必要はないというわけだ。なるほど、「障がい者がいなくなることで国家の経済的負担が軽くなる」という容疑者の考えはヒトラーの思想と一致する。

 ただし、彼は「自分の考えがヒトラーに似ていることは施設側に言われて気づいた」と供述している(8/2日刊ゲンダイ)。家宅捜査でナチスに関する書籍や資料が見つかっていないことをみても、ナチスに傾倒した結果、障がい者抹殺の思想を抱くようになったとは考えにくい。

 では、何の影響を受けたのか。弱者切り捨てがまかり通る現代日本の風潮であろう。新自由主義政策が自明のこととされ、競争に負けた者、競争に参加できない者は容赦なく排除される社会のあり方だ。この容疑者だけがヒトラーに似ているのではない。今の日本そのものが、人間の「生きる価値」の有無を国家が決めたナチス化しているのである。

安倍自民党と同じ

 犯罪は時代を映す鏡という。安倍政権が掲げる「一億総活躍社会」には、活躍できない者は社会の一員ではないという響きがある。人間の命までコスト換算し、生産性の低い者は価値がないとみなす。そんな経済至上主義に支配されたこの国の姿を今回の事件は象徴しているように思う。

 実際、安倍自民党の極右政治家や彼らの取り巻き連中は、障がい者や老人への社会保障支出を「国家財政の無駄」とみなす言動をくり返してきた。老後を心配する高齢者に「お前、いつまで生きているつもりだ」と言い放った麻生太郎副総理。医療費の増大について聞かれ、「私なら延命治療などせずに尊厳死を選択する」と語った石原伸晃・経済再生担当相等々。

 事件発生後も、安倍政権を熱烈に支持するネット右翼たちが「カネ食い虫を殺して国の役に立った」など今回の犯行に「理解」を示す意見を撒き散らしている。“障がい者を殺せば愛国者として英雄視される”という容疑者の考えは、あながち妄想ではなかったということだ。

反人権思想を許すな

 新自由主義政策の実行者たちは分断支配の手口を使う。民衆の怒りが自分たちに向かわないようにするために「君たちの生活が苦しいのは、あいつら(障がい者、老人、生活保護費受給者、外国人など)のせいだ」とささやくのである。これが数々のヘイトクライムを誘発してきた。

 焚きつけられた嫉妬の感情は対象への憎悪に発展し、制裁や排除を正しい行為とみなす社会の風潮が背中を押す。このような図式での社会的弱者を狙った犯罪は随分前から起きていた。たとえば、各地で相次ぐ少年らによるホームレス襲撃事件である。

 言い方は悪いが、社会の底辺にいる者が自分よりさらに弱い者を「役立たず」「社会のゴミ」と決めつけ攻撃する。そのことによって歪んだ正義感を満足させ自己肯定感を得ているのだとすれば、あまりにも悲しい。差別感情を扇動した者の罪は重い。

   *  *  *

 誰もが個人として尊重され、幸福を追求する権利を無条件に持っている−−この天賦人権思想を自民党の改憲草案は否定する。権利には「責任や義務」が伴い、「公益」に尽くす見返りとして与えられるというのだ。こうした発想の延長線上に今回の事件があるような気がしてならない。

 国家や資本の利益に貢献しない者は無価値である−−そんな反人権思想を絶対に許すわけにはいかない。 (M)

衆院議長宛ての手紙(一部)

 私は障害者総勢470名を抹殺することができます。

 常軌を逸する発言であることは重々理解しております。しかし、保護者の疲れきった表情、施設で働いている職員の生気の欠けた瞳、日本国と世界の為(ため)と思い、居ても立っても居られずに本日行動に移した次第であります。

 理由は世界経済の活性化、本格的な第三次世界大戦を未然に防ぐことができるかもしれないと考えたからです。

 私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活、及び社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です。

 重複障害者に対する命のあり方は未(いま)だに答えが見つかっていない所だと考えました。障害者は不幸を作ることしかできません。

 今こそ革命を行い、全人類の為に必要不可欠である辛(つら)い決断をする時だと考えます。日本国が大きな第一歩を踏み出すのです。

 世界を担う大島理森様のお力で世界をより良い方向に進めて頂けないでしょうか。是非、安倍晋三様のお耳に伝えて頂ければと思います。

 私が人類の為にできることを真剣に考えた答えでございます。

 衆議院議長大島理森様、どうか愛する日本国、全人類の為にお力添え頂けないでしょうか。何卒よろしくお願い致します。

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