2016年08月19・26日発行 1441号

【どくしょ室 消費税が社会保障を破壊する 伊藤周平著 角川新書 本体800円+税 貧困と格差を拡大する税制】

 投票の際に有権者が重視する政策のなかで社会保障は1位か2位となっている。参院選でも社会保障が1位だった(6/6朝日)。これだけ注目度がありながら、社会保障制度の解体攻撃が強まっていることはそれほど理解されていない。もし理解されているならば、安倍政権への批判はもっと高まっていただろう。

 一方、社会保障充実のためには消費税増税が不可欠とする俗説が執拗に宣伝されている。マスコミもこの俗説を垂れ流しており、不当な社会保障削減の事実を伝えることが少ない。しかも、消費税増税先送りに対して社会保障の財源はどうするのか≠ニ的外れな批判を行っている。

 社会保障制度解体攻撃に対抗するには、その攻撃の狙いを的確につかむことから始めなければならない。本書は、「選挙の投票行動に生かしてくれること、そして、野党が、本書の提言などを参考にして、消費税に依存しない社会保障充実の明確なプランを提示してくれることを願って書かれた、社会保障のガイドブック」として著された。

 ガイドブックの性格に合うよう各章のタイトルが工夫されている。各制度の問題点を端的に表現しているのだ。以下、列挙する。

 序章「悲鳴続出! 消費税増税と社会保障削減」、第1章「消費税が増税されたのに、なぜ社会保障が削減されているのか?」、第2章「少子化対策―解消されない待機児童、保育料の値上がり、深刻化する子どもの貧困」、第3章「医療・介護制度改革―給付抑制と負担増で、介護離職ゼロどころか激増の危機」、第4章「生活保護制度改革と年金制度改革―遠のく生活の安心、高まる老後の不安」とされている。

 第5章と第6章では消費税の本質と問題点を明らかにしたうえで、公平な税制で社会保障充実のための財源が確保できることを示す。具体的には、所得税の累進課税強化と総合課税化、法人税引き下げ中止と課税ベースの拡大、タックスヘイブンへの対応、資産課税の強化と富裕税の構想を提言している。その結果、消費税の廃止まで見通せる、という。そして、終章で対案を述べる。

 社会保障は制度ごとに複雑な内容を含んでおり、ある制度への削減攻撃がその関係者にとっては死活問題でもあるにもかかわらず他者には理解しづらいものになっている。たとえば、ブログをきっかけに政治問題化した待機児童問題は20年以上前からの課題であるが、ずっとマイナーな扱いだった。その深刻さは伝えられてこなかった。

 このように、社会保障の各制度は以前の待機児童問題と同じような状況下にある。社会保障のために消費税増税が強調される一方で社会保障制度解体が強行されている現状をつかむにはしっかりとした概説書が必要だ。本書はその一冊である。      (I)
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