2016年09月23日発行 1445号

【福島原発事故から5年半 増え続ける地下汚染水】

 福島原発事故は「アンダーコントロール」と嘘をつき、オリンピックの東京開催をもぎとった安倍政権は、いま避難者の存在そのものを消し去ろうと、避難指示区域を次々と解除している。オリンピック開催時には原発事故は完全に収束したことにするためだ。だが、原発事故は全く収束していない。それを象徴するのが増え続ける放射能汚染水だ。

破たんする凍土遮水壁

 福島第一原発の放射能汚染水対策として1〜4号機周囲の地盤を凍らせる凍土遮水壁(注)の運用から5か月。「汚染水発生量の抑制」という効果は表れず、原子力規制委の外部有識者からは「凍土壁で地下水を遮る計画は破たんしている」(橘高<きつたか>首都大教授)との声も上がっている。

 海側の凍土壁の延長は690b。東電によると、約5千か所での温度計の測定で、99%が氷点下となっていることが確認されたという。ほぼ凍ったのかというとそうではない。未凍結部分が1%ということは、延長6・9b、深さ30b、面積にすると207平方bが凍らず、地下水の通り道になっているということだ。そのため、海側遮水壁の護岸よりにある井戸(サブドレン)からの地下水汲み上げ量に目立った変化が見られない。1日当たりの汲み上げ量は7月でも約350dで、これは事業開始当時とほとんど変わっていない。

 先日の台風10号通過の際は、大雨の影響で凍土壁の2か所で温度が上昇し溶けるという事態が発生した。大雨が降るたびに溶けるものが遮水壁と言えないことは明らかだ。


粘土遮水壁の設置に抵抗

 もともと太平洋に面した崖を25bほど削って建てた福島第一原発には日量1千dの地下水が流れ込んでおり、このうち400dが原発建屋に流入している。

 事故直後、民主党政権はいったん東電に原発地下の周囲に深さ30bの粘土製の遮水壁を設けるよう指示した。だが1千億円の費用がかかることが分かると東電は、市場から債務超過との評価を受けることを恐れ、粘土遮水壁の設置に抵抗し、結局地下水流入問題をうやむやにしてしまった。放射能の流出を防ぐこと(国民の安全)よりも企業の存続を優先したのだ。

 ところが汚染水を貯めておくタンクが福島第一原発敷地を覆いつくすばかりに増えてしまい、再び地下水問題が浮上した時に東電が採用し、規制委も認めたのが凍土遮水壁だった。

指摘されていた問題点

 凍土遮水壁の効果が見られないとして、別の対策の検討を求めた規制委に対し、東京電力は「地下水の流入を完全に止めるのは技術的に困難」「完全閉合は考えていない」と開き直った。

 東電の「完全閉合は考えていない」という発言に対して、双葉町の井沢町長は「方針転換とも取られかねない発言を唐突にする東電の姿勢には、非常に違和感を感じる」と反発し、浪江町の馬場町長も「凍土壁で汚染水を完全に管理できるという説明だったはず」と批判した。

 1〜4号機の建屋地下にたまっている地下汚染水は、浄化処理を終えて貯水タンクに入っている汚染水より放射性物質の濃度が10万倍ほど高い。その高濃度汚染水が約6万8千dに達している。7月19日の規制委会合で更田委員長代理は「こんな高濃度の水が建屋内に残っているのを座視できない」と懸念を表明し、タンクを増設し、地下汚染水を浄化してタンクに移設するよう求めた。

 2014年夏に45万dだった貯水タンクの汚染水は80万dに増え、原発敷地内は貯蔵タンクだらけだ。

チェルノブイリでも

 実は地下水問題は1986年チェルノブイリ原発事故の際にも問題になった。メルトダウンした原発地下からの放射能流出をどう防ぐか、特に原発の東側にある川(下流に大都市キエフがある)への流入を阻止することが緊急の課題だった。ソ連政府(当時)の要請で指導に行った江口鉱研工業椛O社長(工学博士)によると、作業トンネルを掘り、地下からセメントを注入し原子炉の周囲をセメントで固める工法を提案し、その工法が採用されたという。江口さんは、福島原発事故のあと政府や東電にも同じ工法を提案したが、日本では採用されなかった。

 東電の場当たり的対応は、安全よりも負担軽減を優先する根本的姿勢の帰結である。この命よりカネ℃p勢を転換させ、東電・政府が抜本的対策を講じない限り、地下汚染水は海洋へ流出し、世界を汚染し続けることになる。

(注)凍土遮水壁

 地中に管を埋め込み、管内部に氷点下40度以下の冷却材を循環させて周りの土を凍らせて造る壁

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