2016年09月23日発行 1445号

【未来への責任(208)人権無視の「慰安婦」日韓合意に怒り】

 7月28日、韓国で昨年12月28日の「慰安婦」問題に関する日韓両政府間の「合意」を履行するための「和解・癒やし財団」が発足した。発足に当たって財団理事長は、生存する元「慰安婦」被害者40人のうち37人のハルモニや家族と会い、「多くの方が財団の事業に参加したいという意思を示した」と述べた(7/29東京新聞)。

 8月24日、日本政府は同財団に対し10億円を予算予備費から拠出することを閣議決定するとともに、その使途を発表した。昨年末日韓「合意」時点の生存者46人に対し1人当たり約1千万円、故人199人(その代理人)に対し約200万円を支払う。その名目は、生存者に関しては「医療や介護などの費用」、死亡者に関しては「葬儀関係費・親族の奨学金等の費用」。あくまで「賠償」ではないという建前だ。

 このような経過から、昨年末に日韓両政府間で交わされた「合意」は順調に履行されつつある、と見る人もいるかもしれない。日本のメディアも歓迎している。

 しかし、実態は違う。

 7月28日の財団発足式には、財団理事長の前記の言葉とは裏腹に、元「慰安婦」は誰一人出席しなかった。代わりに会場に学生らが入り、「財団反対」を叫んだ。金福童(キムポクトン)ハルモニは「お金が欲しくて闘っているわけではない」「(日本政府が)自分たちがしたことだ、ときちんと言ってくれるなら、私たちも理解することができます。心からにじみ出る気持ちで私たちの名誉を回復して法的に賠償することを今、私たちは要求しているんです」と述べている(8/26韓国CBSラジオ)。

 そして8月30日、12人の元「慰安婦」ハルモニは「韓日両国の合意は憲法裁判所の決定に違反している」として韓国政府を相手取り、1人当たり1億ウォン(約910万円)の損害賠償を求める訴訟を起こした。

 財団が発足し、日本政府が10億円を拠出しても、日韓両政府「合意」は依然として「最終解決」とはならないのである。

 日本政府は「スピード感が大事だ。賠償金ではないと言い続ければよい」(8/25朝日)とうそぶきつつ、日韓両政府「合意」の着実な進行を演出し、他方で日米韓安保協力強化を推進している。これはまさに1965年日韓請求権協定の「再現」にほかならない。請求権協定で日本政府は「経済協力」名目で無償・有償5億ドルの「物品・役務」を韓国に提供し、これを韓国政府は植民地支配に対する「賠償」的性格を有するものとして受け取った。ただ、それは植民地支配の被害者に対する補償にはほとんど使われなかった。今回は「名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しのため」という名目で現金が支払われ、被害者に現金が渡されることになっている。しかし、それが賠償ではない限り被害者に「名誉と尊厳の回復」をもたらさない。

 日本はいつまで植民地主義の清算を先送りするつもりなのか。これでは被害者にも、東アジアにも、真の平和は訪れない。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク事務局長 矢野秀喜)

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