2016年09月23日発行 1445号

【どくしょ室/武器輸出と日本企業/望月 衣塑子著 角川新書 本体800円+税/日本版軍産複合体の足音】

 安倍政権は、2014年4月に武器輸出解禁を決めた。日本企業による海外の武器製造企業の買収規制を骨抜きにする策動も強めている。待ち望んだかのように海上防衛の大型武器展示会が昨年5月に開かれた。呼びかけ人の森本元防衛大臣は「この分野にビッグチャンスが開かれている」と語る。そして、防衛装備庁が昨年10月に発足。武器の研究開発から設計、量産、調達、武器輸出などを受け持つ。武器輸出は一気に拡大されようとしている。

 では、軍事産業は儲かる≠フか。大企業は「国防の一翼」「金儲けでなく、日本の国のために」と建前を語る。一方、下請けは「本音で言えばやりたくないですよ。儲からないから」ともらす。さらに、積極的に武器製造につき進めない理由がある。技術の海外流出、自分の身に降りかかるリスク(「テロの標的」となる)、武器を売ることへの「心理的な抵抗」である。著者の取材では「『儲かればいい』という発想だけで商品に関わっている人は皆無だった」という。「国防の一翼」など大義名分を掲げなければ踏み込めない現実があるのだ。

 欧米の大手軍事企業幹部たちは日本の武器輸出策を批判する。「日本は、武器輸出への覚悟はあるのか。防衛はそれほど儲からないし、日本がこんなことに踏み出す必要はない」「武器輸出の以前に、日本はその上にある『国家をどうするか』ということが整理されていない」というのだ。泥棒が他の泥棒を諫(いさ)める類(たぐい)ではあるが、意外に的を射ている。

 必ずしも儲からないことに加え、リスクを抱える武器輸出策。これに対し、防衛省は手厚い支援策として融資や補助金などを検討する。その一つに貿易保険がある。適用1号案件はオーストラリアでの潜水艦建造事業だった。受注競争に負けて棚上げとなったが、著者はこの顛末を追う。浮かび上がるのはリスク対策もなく政治主導となっている事実と、関係する企業さえも不安視する現実だった。

 こうした矛盾は反対運動にとっての材料となる。しかし、現に武器輸出政策は着々と進められている。

 世界では武器輸出が増加しており、それに対応して安倍政権は軍産複合体をつくろうとしている。その中で、大学―たとえば東大の「軍事研究禁止原則」が切り崩されようとしている。東大が落ちればあとはさみだれ式に政権の意向が通るというわけだ。その手法で重要なものに”デュアルユース”がある。民生用の技術であっても軍からの資金援助で研究を行い、成果は軍事に使われるものだ。どこに「一線」を画すのか。現在は研究者の倫理観にゆだねられているにすぎない。

 「関係者への取材は困難であった」と著者は語る。武器輸出策はそれほど機密性が高い。本書は調査取材により、機密の一端を暴いている。

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