2016年10月07日発行 1447号

【戦争法の具体化 南スーダンPKO/権益のための武力行使を狙う】

 戦争法の強行「成立」から1年がたつ。安倍首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」の一環として「積極的平和主義」の名のもとグローバル資本の利益のための「対テロ戦争」本格参戦に向けて戦争法を強行した。その手段が、自衛隊の「殺し殺される普通の軍隊」への変貌だ。

 戦争法は「対テロ戦争」にいつでもどこへでも派兵するためのものだ。以下、概要を振り返る。

 安倍戦争法は、歴代自民党政権も違憲としてきた「集団的自衛権行使」を可能とすることを皮切りに、自衛隊海外派兵・武力行使にかかわる憲法の制約を一気に取り払うことをもくろんだ。

 集団的自衛権行使とは、軍事同盟国への武力攻撃を日本への攻撃とみなして攻撃国に対し武力行使することをいう。「自衛」とは名ばかりで、攻撃国への日本からの先制攻撃だ。政府は「武力行使の新3要件」(注1)を満たせば集団的自衛権を行使できるとし、第1要件を「存立危機事態」と呼んだ。政府が「存立危機事態だ」と認定すれば同盟国の戦争に割り込んで直接武力行使できる。

 自衛隊法の改定で、公海上での他国軍の艦船防護も可能とした。

 戦争法は、他国軍への戦闘支援も拡大した。政府が「我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(重要影響事態)と認定すれば、自衛隊による弾薬補給や武器輸送=兵站(へいたん)や船舶検査を可能とする。昨年4月、社民党・福島議員の追及に対し、中谷防衛大臣(当時)は「劣化ウラン弾もクラスター爆弾も弾薬」と答弁した。ミサイル・大量破壊兵器・核兵器も「弾薬」として提供できるというのだ。活動範囲に地理的制約はなく、他国領域でもおかまいなし。救援活動は戦闘が始まっても継続する。

 新法の「国際平和支援法」では、国連安保理などが「国際社会の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と認定すれば、自衛隊はいつでもどこへでも出動し他国軍の支援ができる。海外派兵恒久法だ。

 PKO(国連平和維持活動)協力法は、対象と武器使用基準を大幅に拡大した。

 攻撃を受けている他国部隊やNGO(非政府組織)を救援するための「駆けつけ警護」や他国部隊との「宿営地共同防護」を任務として解禁。これらも併せて「任務遂行のための武器使用」を可能とした。

 いずれも、日本政府の勝手な判断で、また、グローバル資本主義諸国の意に沿って自衛隊海外派兵を実現する。憲法第9条を破壊する実質改憲だ。

自衛隊も「敵軍制圧」へ

 自衛隊が「殺し殺される普通の軍隊」へと変貌する可能性がきわめて高いのが南スーダンPKOだ。

 南スーダンは2011年の独立以降、国軍大統領派と副大統領派に分かれ装甲車や機関銃など重火器を持ち出して戦闘を繰り返している。数度の停戦合意も形だけのものとなり、PKO部隊からも戦闘による死者が出ている。

 兵士による性暴力・略奪は日的な出来事となり、PKO部隊の宿営地は数万人の民衆が避難し難民キャンプさながらだ。国連安保理は2014年5月、PKO部隊の優先任務を民間人保護に変更した。今年8月12日には「地域防護部隊」4千人の増派を決定。あわせて、「国連要員と施設、設備を暴力から守るため必要なあらゆる手段を講じ、先を見越した展開と積極的なパトロールを行い、民間人を脅威から防護する」との決議も採択した。どのような勢力に対しても、国連施設や民間人への攻撃準備が発覚した段階で武力行使を開始する。これは、PKO部隊が先制攻撃することを意味する。国連自身が紛争当事者となる事態にまで内戦はエスカレートしている。政府が派兵の条件とする「PKO参加5原則」(注2)などすでに崩れ去っている。



 安倍はこのような内戦が激化する南スーダンへの自衛隊派兵を継続している。しかも、戦争法による「駆けつけ警護」「宿営地の共同防護」「任務遂行のための武器使用」など新任務を与えてだ。

 新任務への実働訓練は9月14日から各部隊で開始されている。11月に派兵される交代部隊から新任務が付与される。交代部隊には40人〜50人の「駆けつけ警護即応チーム」が設置される(9/20朝日)。

 このチームは、装甲車両・重機関銃・無反動砲など重火器を備えた戦闘専門部隊だ。医官(医師)・救命救急士も所属する。もちろん「医療支援」ではない。戦傷者・戦死者が出ることを織り込んでいるのだ。

 11月派遣部隊の駆けつけ警護は首都・ジュバに限定する方針だという。だが7月に発生したジュバでの大規模な戦闘では、自衛隊宿営地からわずか100メートルのビルで政府軍と反政府軍が戦闘を繰り広げ、政府軍に2人の死者が出ている。100メートルといえば、軍が装備するたいていの火器の射程内だ。

 安保理がPKO部隊の先制攻撃を認め、自衛隊が「駆けつけ警護」「宿営地の共同防護」を発動すれば、戦後初めて自衛隊が敵軍制圧≠ノ手を染めることとなる。

 安倍は8月末、アフリカ開発会議で3兆円の官民投資をぶち上げた。南スーダンはアフリカ地域有数の産油国だ。南スーダンPKOは中国に後れを取った日本のグローバル資本にとって、日本政府の存在感を示すために必須のものだ。それは、戦争法によって軍事とカネをセットに全世界で権益をむさぼる「地球儀外交」の先駆けとなる。

 殺し殺させる前に、自衛隊は直ちに撤退しなければならない。

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注1 武力行使の新3要件

1我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること(存立危機事態)

2これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと

3必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

注2 PKO参加5原則

 (1)紛争当事者の間で停戦合意が成立 (2)国連平和維持隊が活動する国や紛争当事者が日本の参加に同意 (3)国連平和維持隊が中立的立場を厳守 (4)以上の条件を満たさなければ撤収できる (5)武器使用は生命防護のため必要最小限とする。このうち1つでも満たさなければ派兵できない。
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