2016年10月07日発行 1447号

【貧困連鎖を加速する教育ローン=奨学金返済 給付型奨学金創設は待ったなし】

「一家破綻」の可能性も

 貧困化が進む中で、奨学金=学資ローンの返済に困る人が後を絶たない。この問題は、保証人となった家族や親族が年金などから返済を余儀なくされたり、保証人が亡くなっても債務が継続されるなど、とんでもない事態をもたらしている。

 日本学生支援機構の統計では、本人が返済できなくなり保証機関に代位弁済(注)を求めた請求件数・総額が2010年度4375件76億4400万円だったのが、2014年度には7944件167億4100万円と、それぞれ約2倍に膨れている。保証人に対する返済請求も増えていることは容易に想像できる。「一家で破綻する」一歩手前の相談ケースも出てきている。

「給付型」はかけ声だけ

 安倍政権は「一億総活躍」方針で「給付型奨学金の創設に向けて検討」を表明。8月2日閣議決定された経済対策では、「給付型奨学金の実現」、「無利子奨学金の拡充」、新たな「所得連動返還型奨学金制度」導入に向けたシステム整備などが盛り込まれた。

 文部科学省の検討チームは、非公開で制度設計を検討し、9月1日「議論のまとめ」を公表した。対象者に成績基準は設けるが、学校推薦で選ぶことも検討し、経済的な事情も考慮するとされた。しかし、具体的な給付額は示されず、文科省の2017年度予算概算要求でも、給付型奨学金については金額を示さない「事項要求」となっている。

 文科省は「有利子から無利子へ」の流れを加速するとして、「(無利子奨学金の基準を満たしているのに予算不足で無利子貸与されない)残存適格者2万4千人をゼロにする」という政策も強調している。この「残存適格者」が14万人を超えた2011年度以降、家計基準厳格化を進め、当時年収951万円以下だった要件が来年度は747万円以下にと厳しくなる。対象となる母数を減らすことで「数が減った、ゼロになった」とするごまかしは「待機児童ゼロ」の演出と同じだ。また、「有利子」は金融機関からの借入や財投債(国債)が資金となっており、低金利の中でも利益が出せる「学資ローン」は維持しようとしている。

 一方、新「所得連動返還型奨学金」について、文科省の有識者会議は8月30日、所得の9%を返還額とする制度案を了承した。2017年度に新規で無利子奨学金を借りる学生から適用するとしている。だが、批判が多く出た「年収ゼロであっても最低返還月額は2千円」とする案は残ったままだ。また、例えば年収300万円未満を返還免除とするような閾(しきい)値(境界線)の設定はなく、返還期間の上限もない永久返還の学資ローンであることは何も変わっていない。低所得者対策としての「所得連動」と言える制度設計にはほど遠い。

教育の機会均等保障を

 貧困化が進む中で、高等教育進学を希望する者すべてを対象として奨学金を給付する制度設計を行うことは、憲法や国際人権規約から政府に要請されているものだ。また、成績を給付条件や返還免除の判断基準とするなど、差別・選別をなくして全面的な発達保障を支える奨学金とすることこそ問われている。

 財源についても、消費税増税や予算付け替えではなく、富裕層からの徴税強化による「所得の再分配」として「給付型奨学金」を位置づけさせていくことが必要だ。

 「80歳を過ぎたが、息子が消息不明で連帯保証人として少額返還している」「親は低収入。アルバイトで返済できない孫の保証人となっているため、返還督促が来た」―深刻な相談は今も続く。こうした負の連鎖を断ち切るために、給付型、返還免除など、ローンではない本来の意味での奨学金制度とすることは待ったなしだ。

(注)代位弁済 保証人を付けず、貸与される奨学金からあらかじめ保証機関に保証料が天引きされ、返済不能の場合に保証機関が本人に代わって支払うもの。今度はそこから取り立てられることになる。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS