2016年10月07日発行 1447号

【未来への責任(209)中国侵略の国家責任追及の闘いへ】

 2007年4月、最高裁は西松建設を訴えた元中国人強制連行被害者の判決で「本件被害者らの被った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった一方、上告人は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相応の利益を受け、更に前記の補償金を取得している」と、裁判上の請求権は消滅したとしながらも関係者による被害者の救済を促した。この判決を踏まえ、2009年10月に安野発電所に強制連行された中国人360名に対して「歴史的責任を認識し、生存者およびその遺族に対して深甚なる謝罪の意を表明。後世の教育に資するために、安野案件の事実を記念する碑を建立。一括した和解金として金2億5000万円を支払う」とする和解が成立した。

 そして今年6月には、三菱マテリアルと中国人強制連行被害者および遺族(対象者3765名)との間で和解が成立した。会社の謝罪、1人当たり10万元(約170万円)の支払い、歴史を語り継ぐ慰霊追悼事業を実施、所在の不明な被害者・遺族を捜す調査、など画期的な和解となった。

 8月27日に開催された関西での報告集会で林伯耀さんが「和解は、現地の被害当事者たちが立ち上がって被害者自らが運動を組織して勝ち取った勝利である。また、韓国の大法院判決も大いに後押しをした」と述べたように、今回突然に和解が成立したわけではない。

 これまで、中国国内で三菱関係の被害者団体(聯誼(れんぎ)会)を事業所単位(飯塚、槙峰、美唄(びばい)、尾去沢(おさりざわ)、大夕張、雄別土屋など)に結成し、2011年には大同団結して「三菱連席会議」に。2013年には「三菱受害労工団」として統一要求書を作成し、三菱との交渉を一本化した。一方、「受難現地」である北海道・東北での行動、三菱マテリアル本社・国会行動、北京や上海、山東省での三菱マテリアル関連の現地法人・日本大使館等への連続抗議行動などの幅広い運動の結果としての和解であることを忘れてはならない。

 昨年6月、花岡事件の被害者・遺族と大阪築港に強制連行された被害者・遺族ら13名(後に2名増え合計15名)が日本政府の国家としての強制連行責任を問う国家賠償請求の訴えを大阪地裁に起こした。この裁判について老田(おいた)裕美さんは「提訴にあたって、既に最高裁判決が下されているという人もいたが、あえて提訴に踏み切った。それは、この裁判がこれまでの中国人戦後補償裁判を『総括』する意義を持つ重要な裁判だからである。華北地方においては、満州国という傀儡(かいらい)国家で行われたよりももっとひどい人的、物的資源の略奪が行われていたが、そのような当時の日本政府の中国侵略と占領支配の本質を問う裁判である。歴史修正主義がはびこる中で、かつての中国侵略が組織的、計画的、かつ構造的に行われた『国家的犯罪行為』であったこと、そのことを明らかにしたい」と語っている。9月9日までに4回の口頭弁論が開かれたが、今、裁判は実質審理に入るかどうかの山場に差しかかっている。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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