2016年10月07日発行 1447号

【「3・11甲状腺がん子ども基金」設立記念シンポ/国家の責任で無料の健康管理対策を/菅谷・松本市長が基調講演】

 7月に設立された「3・11甲状腺がん子ども基金」は9月17日、都内で記念シンポジウムを開いた。

 代表理事の崎山比早子(ひさこ)さんがあいさつ。「174人から甲状腺がんが見つかり、135人が手術を受けた。転移や再発など深刻な状況も報告されている」と述べ、基金の主な事業として(1)甲状腺がん患者への療養費の給付(2)甲状腺がんの増加について理解を深めるイベントの開催(3)被曝で健康被害を被った住民の相談事業、の3つを挙げた。

 「チェルノブイリ30年、福島5年」と題して基調講演したのは、基金の特別顧問に就いた長野県松本市長の菅谷(すげのや)昭さん。96年から5年半にわたりベラルーシで小児甲状腺がんの治療を中心とした医療支援に従事した経験に立って、基金への期待を表明した。

 菅谷さんは今年7月、ベラルーシを再訪。女性小児科医から「汚染地の子どもたちに毎年1か月程度の保養を国の責任として無料で実施している。日本でなぜそのような国家的プロジェクトが行えないのか」と聞かれ、返答に窮したという。

 高汚染のゴメリ州で保健局長を務める内科医によると、州の人口のうち健康なのは18%で、残りは何らかの病気を抱えている。「こういう問題は政府が動かなければ進まない。国家は人びとに対して背を向けてはいけない」と同局長はきっぱり語った。ゴメリ州では、大統領令により7階建ての子ども医療センターの建設が進行中だ。

 チェルノブイリ事故後の健康被害は低汚染地域にも見られる。免疫機能の低下や貧血、早産・死産・先天性異常などのほか、疲れやすい・集中力欠如・体力低下といった症状が報告されている。子どもに歌のレッスンをする教師は「事故前は長時間の練習にも耐えられたが、今は途中で休まないとだめ」と話す。

 これに対し、ベラルーシ政府は汚染地域居住の子ども(6〜17歳)に国による年2回の定期健診を継続している。1回目は内分泌専門医の診察と眼科・歯科検査、甲状腺超音波検査、血液・尿検査、希望者にホールボディカウンター、2回目は小児科医の健診が主体だ。18歳以上の住民にも国費で年1回定期健診が行われる。

 菅谷さんは「財政豊かではないベラルーシで、これらはすべて無料。“豊かな国”日本なら、原発推進政策から生じた事故の責任は国がとるべきだ。その方向に国民がムーブメントを起こしていく必要がある」と強調。「基金の立ち上げで、運動している全国の市民のみなさんが結束し、国を動かしてほしい」と呼びかけた。

 ベラルーシ滞在中、かつて自らが甲状腺手術に携わった子どもたちと再会する。結婚・出産し、元気に過ごす彼女たちの「今の幸せを大切にしたい」の言葉に、菅谷さんは「福島の子どもたちにも『結婚もできるし赤ちゃんも産める』と光の部分を伝えたい。基金でもこのことを宣伝していきたい」と付け加えた。

 「3・11甲状腺がん子ども基金」の詳細は以下のウェブサイトで。 http://www.311kikin.org

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