2016年10月07日発行 1447号

【辺野古訴訟不当判決/「辺野古しかない」の結論ありき/政府追認の背景に裁判長人事】

 沖縄県名護市辺野古の新基地建設をめぐる裁判で、福岡高裁那覇支部(多見谷寿郎裁判長)は9月16日、国の主張を全面的に認める判決を言い渡した。判決は「米海兵隊の航空部隊を県外に移転することはできない」と断定。「辺野古に新基地を建設するしかない」との判断を示した。驚きの政府追認判決の背景に何があったのか。

国の主張を丸呑み

 今回の判決について、安倍政権の幹部は「素晴らしい判決。ここまで言及するとは思わなかった」と、手放しの喜びようだったという(9/17沖縄タイムス)。防衛省幹部が語るように、「結論を導くのに、わざわざ触れなくてもいい所まで理由に書き込んだ」(9/20同)からだ。

 違法確認訴訟と呼ばれる本件の審理対象は「前の県知事が行った『埋め立て承認』を現知事が取り消したことの是非」である。「前知事の埋め立て承認に瑕疵(かし)がある」という沖縄県側の主張を裁判所が実体的に審査するのか、それとも手続き論だけで判決を出すのか。注目点はここだと見られていた。

 しかし、実際の判決は予想をはるかに超えていた。「米軍普天間飛行場の県外移設は困難」とする国側の主張を全面的に採用し、辺野古新基地建設の妥当性にまで踏み込む判断を示したのである。

 まずは軍事的な観点から。いわく「北朝鮮が保有する弾道ミサイルのうち、ノドンの射程外となるのはわが国では沖縄などごく一部であり…沖縄に地理的優位性が認められるとの国の説明は不合理ではない」「海兵隊航空基地を沖縄本島から移設すれば、海兵隊の機動力・即応力が失われる」「在沖縄全海兵隊を県外に移転することができないという国の判断は、戦後70年の経過や現在の世界、地域情勢から合理性があり尊重すべきである」

 続けて環境面。「取り消すべき公益上の必要(自然海浜の保護)が、取り消すことによる不利益(日米間の信頼関係の破壊、国際社会からの信頼喪失等)に比べて明らかに優越しているとまでは認められず、本件承認処分の取り消しは許されない」

 翁長県政が依拠する「沖縄の民意」についてはどうか。「本件新施設等の建設に反対する民意には沿わないとしても、普天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める民意に反するとはいえない」

 いずれも国側の主張を丸呑みした論理展開である。民意のくだりに至っては詭弁としか言いようがない。

自己決定権の否定

 判決の核心部分はこうである。「『住民の総意だ』として、都道府県全ての知事が埋立承認を拒否した場合、国防・外交に本来的権限と責任を負うべき立場にある国の不合理とはいえない判断が覆されてしまう。(中略)よって、国の説明する国防・外交上の必要性について、具体的な点において不合理と認められない限りは、知事はその判断を尊重すべきである」

 “地方自治体は中央政府の「国防・外交」上の判断に黙って従え”といわんばかりの発想だ。住民の自己決定権をないがしろにしている。地方自治や民主主義の基本に反する不当判決というほかない。

政治的人事の帰結

 裁判所の実態を赤裸々に描いた長編小説『法服の王国』の著者である黒木亮は、昨年12月の段階で「この裁判は最初から国が勝つと決まっていると言っていい」(プレジデント・オンライン)と指摘していた。裁判を担当する福岡高裁那覇支部の裁判長(那覇支部長)に「行政寄り」の人物が配置されたからだ。



 この多見谷寿郎裁判官が那覇支部長に就任したのは、埋め立て承認をめぐる一連の裁判が提起されるわずか18日前のことだった(2015年10月30日付)。前任は東京地裁立川支部の部総括判事で、在任期間は1年2か月。裁判官の異動は通常3年ごとだから異例の人事である。

 この人事により、前支部長の須田啓之裁判官はわずか1年で那覇支部を去ることになった。須田裁判官はC型肝炎訴訟や原爆症認定訴訟で国の責任を厳しく認定した判決を書いたことで知られている。一方、多見谷裁判官は千葉地裁の裁判長時代に多くの行政裁判を手がけているが、黒木によれば「新聞で報じられた判決を見る限り、9割がた行政を勝たせている」という。

 要するに、この交代劇は国に不利となる判決を出させないための政治的人事であった。裁判官の人事権を握る最高裁が安倍政権の意向を汲んで行ったとしか思えない。そして、多見谷裁判長は「上」が期待する以上の判決を書いてのけた。政府を喜ばせることばかりに気を取られ事実関係の確認をおろそかにしたのか、判決文の中で宜野湾市長選の立候補者名などを間違えて記載する始末であった。

 そもそも訴訟指揮自体が露骨に国寄りであった。沖縄県側の証人申請(稲嶺進・名護市長ら8人)をことごとく却下。国の提訴から判決まで2か月足らずというスピードで今回の結論を導き出した。県側の代理人が「尋問もしていないのに、なぜ専門的なことをここまで事実認定できるのか」と憤るのは当然だ。まさに「はじめに結論ありき」の裁判だったのだ。  (M)

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