2016年10月14日発行 1448号

【ブラック企業を応援する安倍の労働基準法大改悪 残業代ゼロ法案を許すな】

 9月26日開会の臨時国会で安倍首相は「最大のチャレンジは働き方改革」とし、「長時間労働の是正」に取り組むと表明した。ところが、野党からの「長時間労働を是正するというのなら、それに反する長時間労働・過労死促進の残業代ゼロ法案を撤回すべき」との追及に、安倍は「残業代ゼロの指摘は当たらない」と何の根拠もあげず開き直った。その大うそを暴く。

 残業代ゼロ法案(「労働基準法等の一部を改正する法律案」)は、2015年4月に安倍政権が閣議決定し提出され、その後継続審議となってきた。自民党は、参院選の公約でも、この法案には全く触れなかった。しかし、数の力を頼んで今臨時国会での成立に執念を燃やしている。

 法案は7項目から構成されるが、その中心は、「年収1075万円以上の高度な専門知識を扱う専門職」とされる対象者について、一定の要件の下、労働基準法の労働時間規制を撤廃する「高度プロフェッショナル制度」である。

 もう一つは、労働時間計算を実労働時間ではなく、見なし時間で行う「裁量労働制」の対象拡大だ。対象は「広範な営業職」などとされる。

360日勤務も可能

 「高度プロフェッショナル制度」は、該当者に労基法で定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を不適用とするものだ。1日8時間、週40時間の労働時間規制がなくなり、残業自体が存在しないことになる。休日出勤や深夜勤務での割増料金の支払いもない。

 長時間労働「対策」とされる「健康管理時間」とそのための「措置」も全くのまやかしだ。(1)1日のうちに定められた連続する休息時間を取らせること(2)1か月および3か月の勤務時間の上限を定めること(3)1年で104日、4週間で4日以上の休日を確保すること。これら3つが条件ではなく、どれか一つにでも該当すればよいとする。

 (1)に関して、昨年2月参院予算委員会での民主党岡本議員の「残業代ゼロ法案が成立すれば、1日13時間の連続勤務を360日続けて年に5日だけ休ませる、という働かせ方が可能になるのか」との質問に、塩崎厚労相は「理論的には、そういうことになります」と答弁している。

 推進派は「成果主義になったら、さっさと成果を出せば定時より早く帰れてお金もいっぱいもらえるんじゃないの?」とデマを撒き散らす。

 しかし、法案のどこにも成果主義の記述はない。成果主義による賃金支払いを義務付ける制度の導入も記されていない。単に労働時間の規制を外すだけ。固定給のまま過大な業務を割り当てられ、長時間労働に従事させられる。逆に成果主義となった場合は成果が出、ノルマを達成するまで際限なく仕事をさせられ続ける可能性さえある。

省令で全労働者へ拡大

 政府の言う「年収1075万円以上」だから関係ないでは済まされない。これは政府案段階の数字で、法案に書き込まれてはいない。法案にあるのは、年収が「基準年間平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」という文言だけだ。成立時に年収1075万円程度としても、以降は国会で法改正をすることなく、厚労省の省令によって対象となる額はどうにでも変更できる。

 2005年の経団連の提言では、この働き方の対象とする賃金要件を年収400万円(または全労働者の平均給与所得)以上であるとする。平均給与所得以上の労働者はすべて残業代ゼロ≠ェグローバル資本の本音なのだ。

 安倍自身、2014年6月の答弁で「現時点では1000万円が目安になる」としつつ、「経済状況が変化する中で、その金額がどうかということはある」と将来的に広げる可能性を示唆している。

 対象は専門職と言われるが、法案には「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるもの」とされるにすぎず、極めて抽象的だ。こちらも対象業務は「厚生労働省令で定める」となっているため、法改正なしで拡大する可能性は十分ある。


ブラック労働合法化

 「裁量労働制」が拡大される業務は、以下3項目だ。

(イ) 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務

(ロ) 事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用し、当該事項の実施を管理するとともにその実施状況の評価を行う業務

(ハ)法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用した商品の販売または役務の提供に係る当該顧客との契約の締結の勧誘又は締結を行う業務

 (ハ)は「課題解決型提案営業」と呼ばれるもので、ほとんどの営業があてはまる。要するに、完成した商品を売るだけの営業は除かれるが、多少なりとも顧客のニーズに合わせて対応するような営業はすべて含まれる。

 この裁量労働制は、どれだけ残業してもあらかじめ決められた時間しか働いていないと「みなされる」ものだ。現状でも営業職ではサービス残業が横行している。この法律が成立すれば、そうしたブラック労働が完全に合法化されてしまう。しかも、年収要件などは一切なしだ。

 「ブラック企業応援法案」である労基法大改悪を断じて許してはならない。

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