2016年10月14日発行 1448号

【“殺し殺される”自衛隊にさせない/戦争法差し止め訴訟 弁論始まる/「新安保法で身を引き裂かれる思い」】

 安保法制に基づく自衛隊出動の差し止めを求める訴訟の第1回口頭弁論が9月29日、東京地裁であった。原告意見陳述に被告・国は抵抗したが退けられ、陳述が実現した。

 伊藤真弁護士は差し止めの意義について「新安保法制下の自衛隊出動により、ある者は生命等の人格権を、ある者は平和的生存権を、ある者は主権者にのみ与えられる憲法制定権を侵害される。こうした重大かつ深刻な被害を避けるには、違憲の国家行為を事前に差し止めるしか方法はない」と力説する。

「安保法で対日感情悪化」

 原告本人陳述に移り、法廷内の緊張が一気に高まる。

 2002年から紛争地域を取材してきたジャーナリストの志葉玲さん。「イラク取材中、若者たちに『日本はアメリカの犬。われわれの敵だ』と取り囲まれた。親日的だった中東の人びとの、イラク戦争を支持し自衛隊を派遣した日本に対する反発は強い。安保法制で対日感情は悪化し、憎悪は最前線で取材する日本人ジャーナリストにぶつけられる。戦場ジャーナリストの絶滅は人びとの『知る権利』の危機」と警鐘を鳴らした。

 東京大空襲で母と姉と妹を亡くした金田マリ子さん(81歳)。「大空襲の翌朝、黒焦げの遺体があちらこちらに。その光景は今も頭の中に焼き付いて離れない。3か月後、母と姉が隅田川で遺体で発見されたが、妹は行方不明のまま。親戚宅に引き取られ、『お前は野良犬だ』『早よ去(い)んでけ』と言われる惨めな毎日を過ごした。24歳で結婚し子どもができて、『この子にだけは親のいない苦しさを味わわせたくない』。孤児になり生きることに絶望していた私が、初めて感じた『生きよう』という思いだった」

 そう振り返った金田さんは「日本が戦争しないと決めたことで、孤児の苦しみは私たちで終わると思っていた。ところが、また戦争する国になる法律が。戦争は必ず孤児を生む。血を吐くまで叫び続けてでも、国の動きを止めなければ。新しい安保法で私は自分の身が引き裂かれそうな思いだ」と声を振り絞った。

ひとり街頭に立つ

 福岡市で鍼灸マッサージ師として働く富山正樹さん。次男は陸上自衛隊所属の自衛官だ。「専守防衛と災害救援に対する息子の思いを尊重し、自衛隊へと送り出した。ところが、戦争法の強行採決で、息子が戦争に送られるおそれが現実に。『このまま何もせず息子が戦場に行くことになったら、自分で自分を許せない』との思いが、眠れないほど強く湧いてきた」

 続けて「その思いは抑えがたく、たった一人で街頭に立ち、無言のスタンディングアピールを始めた」と言おうとしたところで、富山さんは絶句。その後も涙をこらえながら、「やがて志を同じくする人たちが一緒に立ってくださるようになった。愛し育ててきた息子が海外で殺し殺される場に立つことを想像し、胸は潰れ、心は乱れる。アメリカでは1日平均22人の帰還兵が自殺する。戦闘状態にある南スーダンへの新任務を帯びた派遣が始まったらと思うと、私は居ても立ってもいられない」と陳述を締めくくった。

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