2016年10月21日発行 1449号

【生存権を否定する社会保障解体(3) 介護難民生む保険外しと負担増】

 介護保険制度は昨年4月大改悪が強行され、今後もさらなる改悪が予定される。狙いは介護保険外しと負担増にある。それは大量の介護難民を生み出し、要介護者―高齢者の生存権を否定する。

強まる介護保険外し

 2015年以降、改悪されたものを見てみよう。

 まず、介護保険外しの攻撃。

 中重度の要介護者のための「機能重点化」の名のもとに特別養護老人ホームの新規入所が原則要介護3以上に制限された。52・4万人だった待機者数が34・5万人に減少させられてしまった。その結果、何が起きたか。「要介護度が低くても世話の大変な認知症の人が特養を利用できず、公費を投じた特養の一部に空きが出る矛盾も出ている」(6/30毎日)という実態だ。

 要支援1と2へのホームヘルプサービスとデイサービスが介護保険外とされ、市町村の事業に移行されることとなった。無資格者やボランティアによるサービス提供などが政府によって奨励されているため、サービスの質の低下は不可避だ。それは介護労働者の賃金など労働条件の引き下げにもつながっていく。

 負担増も押し付けられる。

 年間所得160万円(単身で年金のみの場合は280万円)以上の人は利用料が1割から2割に引き上げられた。低所得者などは施設サービス・短期入所サービスの食費・居住費(滞在費)の一部を補足給付されていたが、資産要件(1000万円以上)が加味されたため、該当者は補足給付が打ち切られる。

 今年8月から補足給付はさらに条件が厳しくなり、非課税年金(遺族年金、障害年金)が80万円を超えると負担増となる。食費は390円が650円など、低所得者対策は骨抜きにされる。

 また、15年の介護報酬改悪は小規模事業所を直撃。倒産件数過去過多の深刻な状況だ。

さらなる制度改悪へ

 要介護認定者数の中で要介護1が最も多く、次が要介護2。合わせて認定数の約37%を占める。今後の攻撃の的がそこに定められた。要介護1と2に対する介護保険外しである。生活援助の原則自己負担、福祉用具(車いす、ベッドなど)貸与の原則自己負担、デイサービスを保険外として市町村の事業に移行というものだ。安倍政権は、生活援助を「一般の家事代行サービスに近い」とする認識から自己負担を押し付ける。

 だが、生活援助は生命活動への援助で憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」を維持するサービスだ。負担増で必要なサービスが受けられなくなれば生存権の侵害そのものだ。強い批判の前に、厚労省は先送りを検討と報じられているが予断は許されない。

 また、福祉用具による介護負担の軽減効果は多くの調査からも明らかで、自己負担によって利用度が下がれば重症化と介護者の負担増になる。

 さらに、負担増は全体に及ぶ。15年8月から一定の所得者の利用料が1割から2割に引き上げられたが、今後は年齢による引き上げが予定される。65〜74歳を2割にし、75歳以上についても2割引き上げは検討項目だ。つまり、すべての高齢者の利用者負担が1割から2割へ引き上げられようとしている。

国庫負担増こそ必要

 介護保険外しで自己責任での対応を強いられるため、「受け皿探し」の資料を厚労省・経産省・農水省が3月末に作成した。特定企業を紹介し、その利用を後押しする。お金がなければ介護を受けられないことを示すものだ。

 また、介護保険から外されたサービスは来年4月から市町村の「総合事業」に移行される。これまで国が定めていた基準、内容、単価、利用料を各市町村で決めることになる。7月時点で全市町村の33%しか実施しておらず、市町村ごとのバラつきなど問題は多い。しかも、この事業は保険制度ではなく、誰もが対象となる受給権がなく質の低下も予想される。「総合事業」に対して現行水準を維持できるよう市町村に住民要求をつきつける取り組みが必要だ。

 介護問題は社会的に解決しなければならない。これ以上の改悪を許してはならない。

 介護保険財政の国庫負担倍増と市民・利用者負担の引き下げ、要介護1、2の生活援助などの維持、介護職員処遇改善を求める署名運動も開始されている。当事者、家族、介護労働者、すべての市民が声を上げ、生存権を守ろう。

 
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