2016年10月21日発行 1449号

【元 日テレアナウンサー小山田春樹の/あなたが知らないTVの世界 野球中継見習いで放送人第一歩】

 私が日本テレビアナウンサーとして放送人の第一歩を歩み出したのは、入社して1年後の1978年春だった。日本テレビは読売新聞やプロ野球巨人軍と密接な関係があるのはご存じの通りで、私の仕事はまずプロ野球中継の見習いから始まった。

 先輩である実況アナウンサーの隣に座って、スコアブックに記入し、生放送中に中継ディレクターからの連絡をメモにして渡したり、他球場の試合経過を調べたりするサブアナウンサーと呼ばれる仕事だ。

 2年目からベンチリポーターを担当し、試合中にベンチ裏にやってくる選手を取材し、リポートした。「三塁側です。先ほど阪神の江本投手が出てきまして、『打たれた球はスライダーでコースはぎりぎりだったけれど少し高めにいってしまった』と悔しそうな表情でした」短く素早いタイミングで、メインの実況アナウンサーに呼びかけるのはなかなか難しいものだ。

 当時は屋根の無い後楽園球場だった。ベンチ裏は狭く、記者やアナウンサーがひしめくように選手を取材していた。巨人軍の広報は威張っていて新入りの私はなかなか相手にしてくれず、選手を勝手に密着取材しようものなら怒鳴られることもあった。

 巨人の王貞治選手がホームランの世界記録を更新中で、ハンク・アーロンを抜く756号、800号などをこの目で観ることができた。目の前で展開するドラマチックな光景を実況アナウンスするのは最高の醍醐味だが、ミスは許されない厳しいプロの世界である。

 スポーツの実況はアナウンサーの仕事の中でもとりわけ専門性が要求され、一人前の実況アナとなるまでに10年はかかる。選手などから取材した情報を実況や解説者との会話の中に活用していくことが求められる。ニュース・報道番組では取材は記者が行い、アナウンサーは原稿を読むという分業があるのに対して、スポーツ番組ではアナウンサーが取材から実況・リポートまで一人でこなすことが必要になる。

 巨人戦の視聴率は低迷し、日本テレビでは地上波の中継が激減してBS日テレで放送している。私にとっては隔世の感がある。視聴率低迷の原因は何か? 絶叫調のわざとらしい実況、野球を知らない不勉強な実況…。視聴者から厳しい批評を聞くことがある。野球放送が、ひいてはテレビ番組全体がつまらなくなってしまった原因を探っていきたいと思う。

(筆者はフリージャーナリスト) 
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