2016年12月02日発行 1455号

【このままでは介護難民/国庫負担増で尊厳守れ】

 3年ごとに見直されている介護保険制度。「要介護1・2の生活支援廃止」案は2018年改訂では見送られました。しかし、要支援と判定された方は介護保険から排除し自治体の予算で実施する独自事業=総合事業の対象とする施策が、ほとんどの自治体で具体化されています。

訪問介護の解体を許すな

 在宅生活を支える訪問介護は、利用されている方の家を訪れ、掃除、洗濯、調理といった家事援助、入浴等の身体介護を行っています。同時に大事なことは、利用者の顔色や身体の状態、気分なども会話からつかみ取り、異変を感じればケアマネジャーに報告し対処していることです。

 その訪問介護が大きく変えられようとしています。総合事業では、現行に相当するの介護予防訪問サービスを受ける方、基準緩和型といわれる生活援助型訪問サービスを受ける方、短期集中型サービスの方、ポランティアによる家事援助の方に振り分けられます。多くの自治体は現行相当と基準緩和型を採用しようとしています。

 基準緩和型とは、自治体が行う研修を修了すれば無資格者でも訪問介護ができるようにすることであり、報酬単価が現行相当より2〜3割減額されます。介護事業所にとっては経営難に陥る死活問題となります。事業所として訪問介護員の賃金を2〜3割下げるわけにはいきません。

 ではどうするか。基準緩和型の対象者を受けないという「自己防衛策」を強いられるしかなくなります。そうなると家事援助が受けられない利用者が発生する。まさに介護難民を生み出す施策です。仮に家事援助を受けても、あくまでも家事「代行」であり、最初に述べた利用者の状態を把握する肝心なことが抜け落ちる危険があります。

 訪問介護の利用者からは「信頼できるヘルパーさんだから家の中に入ってもらっている。緩和型になり無資格の方、ご近所の方が来るとなれば利用しません」との声が出始めています。従事者からは「緩和型の対象者であっても従来通りのかかわりをします。しかし報酬を2〜3割下げられるとなるとモチベーションが下がります」とやり切れない思いが出されています。

 また、現行相当と基準緩和型を振り分ける基準が問題となります。

 大阪市は認知症自立度U(日常生活に支障がある認知症状)以上、障害自立度B(ベッド生活中心で車いす利用)以上の方が現行相当の対象となると発表しています。大阪社会保障推進協議会の調査では、大阪市内338事業所、対象利用者8025人からの調査回答のうち、認知症自立度U以上は16%、障害自立度B以上は4・8%しかおらず、現行サービスが受けられるのは10数%しかいないと分析しています。9割近くの方はどうなるのでしょうか。

 大阪市ほどの明確な基準を出していない自治体も多くありますが、財源を理由に要支援対象者を一律緩和型に移行させることは目に見えています。尊厳ある在宅生活を支えている訪問介護を解体してはなりません。

声をあげれば変えられる

 「介護1・2の生活支援廃止」について、厚労省は「見送る」と方針を変更しました。その一方で自己負担増や介護報酬の削減でサービスを抑制していく方針を社会保障審議会部会に示しましたが、委員からは「サービス抑制の負担増に変わりない」と批判する意見が相次ぎました。「人員配置を緩和すれば介護報酬が下がり、職員の処遇改善にも逆行する」(日本医師会)「介護度が改善したら自己負担が増えることになり反対」(民間介護事業推進委員会)との意見も出ています。

 福祉用具貸与や住宅改修の「原則自己負担化」については、180を超える地方議会の意見書が可決され、これも見送られました。

 財務省が主導し、厚労省も推進しようとする「介護費用抑制ありき」の制度設計に全国から反対の声が広がっています。当然のことです。

 住み慣れた地域、自宅で最後まで暮らしたいと願うのは憲法が保障する生存権であり、幸福追求権です。尊厳ある暮らし、一人ひとりの人権を支える介護は、国が責任を負う事業であり、そのためには国庫負担を増やすしかありません。介護保険財政の国庫負担倍増を求める署名を全国に広げましょう。

(兵庫・デイサービスつむぎの家・畑広昭)

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