2016年12月02日発行 1455号

【安倍の「働き方」改革/働かせ放題の無法社会/必要なのは規制強化】

 大手広告代理店電通の女性社員過労自殺が大きな社会問題となっている(前号8面参照)。関西電力の課長職男性社員が4月に自殺したことについても労災認定された。高浜原発1・2号機の廃炉回避と運転延長に向けた審査手続きのために月200時間もの残業を強いられていた。2006年度以降の10年間で、過労死は2839人、過労自殺は1776人、計4615人が命を奪われた。直近の2015年度は482人。労働者は毎日過労死・過労自殺によって命を奪われ続けている。この惨状を安倍政権はどう考え、何を打ち出しているのか。

大うそつきの安倍首相

 安倍首相は10月13日、第1回「働き方改革に関する総理と現場との意見交換会」でこう発言している。「先般、電通の社員の方の過労死では、働き過ぎによって、貴い命を落とされたわけでございます。こうしたことは二度と起こってはならない、このように思っているわけでありますが、働く人の立場に立った働き方改革をしっかりと進めていきたいと、こう思います」

 真っ赤なうそだ。現在の国会に提出されている労働基準法改悪法案は、安倍の言葉とは真逆で、ただ働きを可能にする「残業代ゼロ」制度であり、「過労死促進」法案である。法案が成立すると、長時間労働や過労死もすべて労働者の自己責任となってしまう。

 安倍首相は、残業代ゼロ法案(「高度プロフェッショナル制度」など)を長時間労働是正のためという。だが、長時間労働是正を言いながら、この労基法改悪で導入されるのは、残業代を支払わず、しかも何時間働くのか明確な取り決め規定もなく、経営者の思いのままに長時間働かせることを可能とする制度だ。

是正は低賃金と引き換え

 厚労省は9月9日、残業時間の上限規制導入について議論する有識者検討会(座長・今野浩一郎学習院大教授)の初会合を開いた。長時間労働の是正を通じ仕事と家庭の両立を支援する「ワークライフバランス」をうたうとともに、企業の生産性向上を促すのが狙いとされる。

 同検討会座長の今野に『正社員消滅時代の人事改革』という本がある。宣伝文句に「契約社員、派遣社員、パート社員、高齢社員を戦力化する新しい公式を提示」とある。

 著者今野は、2014年第2次安倍内閣の「働き方改革」のために厚生労働省に設けられた「『多様な正社員』の普及・拡大のための有識者懇談会」座長として報告書を取りまとめた。報告書は、職務や勤務地、労働時間などに制約のない従来型の正社員に代わって、これからは働き方が制約された正社員が主流の時代になると述べる。制約正社員=限定正社員が従業員の中心を占める時代がやってきたというのだ。

 限定正社員の賃金は正社員に比べて低く昇給は頭打ちにされる。正社員の一部を限定正社員にすることによって、労務費を引き下げ、解雇を容易にする。こうした制約を抱えた社員の「ワークライフバランス」は、低賃金・雇用の不安定性と引き換えに初めて「尊重」される。

 正社員として残るのは、残業代ゼロ法適用の基幹社員だけとなる。彼らを待ち受けるのは過労死や過労自殺だ。

 労働法ではなく人事管理が専門の座長起用の狙いは、既存の正社員中心の雇用構造を破壊し、グローバル資本の利益を最大限拡大する雇用構造を作り出すことにある。安倍の提唱する「同一労働同一賃金」も、低賃金に抑えられた限定正社員と派遣労働者やパート労働者との間でしか成り立たないものなのだ。

法適用なし作り出す

 10月24日、第2回働き方改革実現会議は、「柔軟な働き方(テレワーク、多様な就業形態、副業等)の在り方」を議題にした。

 先立つ8月1日、経済同友会は『新産業革命による労働市場のパラダイムシフトへの対応』を発表。「柔軟な働き方」の狙いを次のようにあからさまに描き出している。

 「企業と働き手の関係においても、『リモート・ワーク』を活用した地方や海外における就業等、場所や時間を選ばない働き方や『アライアンス』(注)といった新しい働き方の世界的な拡大等により、『企業に雇用され、与えられた業務に従事する』ことが常識でなくなり…新しい労働市場においては、多様な働き方の選択肢が存在し、企業と個人のニーズが最適な形でマッチングされていく…」

 経済産業省は11月17日、さっそく企業と雇用契約ではなく請負契約などを結んで働くフリーランス人材の活用へ、有識者でつくる「雇用関係によらない働き方」に関する研究会の初会合を開いている。 「多様な働き方」の名で、規制を受ける雇用契約そのものまでなくし、労働法で守られない労働力を作り出す。これがグローバル資本の目標だ。彼らはいう。何でもできる面白い時代がやってくる

 安倍の「働き方改革」を許してはならない。労基法改悪阻止、最賃1500円実現、8時間労働制確立、派遣法撤廃を掲げて闘おう。

(注)アライアンス 会社と個人の雇用契約ではなく、会社と個人が対等な関係で「業務」について契約し、その業務が終了すれば次の業務について相談し、希望する業務がなければ他社に移る可能性もあるとされる新しい形態。

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