2016年12月02日発行 1455号

【未来への責任(213)日中市民の力で緊張緩和へ】

 1972年に日本と中国が「日中共同声明」を交して国交を回復してから44年が経過した。この「声明」で、日本側は「過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」旨を表明した。そして、両国は恒久的な平和友好関係を確立すべく1978年には日中平和友好条約を締結した。この条約の第1条第2項では、「相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないこと」を約束した。

 しかし今、日中は厳しい緊張・対立の中にある。政府レベルだけではなく、双方の市民の中にも無視し得ない反発・不信が根づいている。日本の「言論NPO」と中国の「国際出版集団」が今年の8月〜9月に実施した世論調査では、現在の日中関係を「悪い」(「どちらかといえば」を含む、以下同じ)と判断している日本人は昨年同様71・9%と7割を超えている。 中国人でも、「悪い」という判断が78・2%となり、昨年の67・2%から11ポイント増加している。「領土(尖閣諸島)をめぐる対立」「海洋資源などをめぐる紛争」「歴史認識・歴史教育」等が両国の関係を損なっていることは明白だ。

 他方、日中間の相互依存関係はいろんな部面に広がっている。日本は「観光立国」をめざしているが、中国からは毎年500万人(台湾、香港を含めると1千万人超)もの人びとが日本を訪れている。それは日本の観光業、小売業等を支えていると言っても過言ではない。他方、日本からは中国に2万を超える企業が進出し、現地で1千万人以上を雇用している。両国間の政治的緊張とは裏腹に経済的には引き続き深い相互依存関係にある。

 それゆえに、両政府も緊張を緩和するために一定の努力は重ねている。9月、中国・杭州で開催されたG20首脳会談に合わせて、習近平国家主席と安倍首相は会談を行った。その中で東シナ海での不測の事態を回避するための「海空連絡メカニズム」設置について年内合意をめざすことを合意した。一歩前進とは言える。

 一方で、歴史問題は手つかずのままだ。

 今年6月1日、北京で三菱マテリアル中国人強制連行事件訴訟の和解が実現した。三菱マテリアルは、下請け先も含む事業所で強制労働させた3765人を対象とした和解に踏み切った。歴史的責任を認め、会社の責任者が北京に赴(おもむ)き直接謝罪した。和解金(賠償に相当)の額もこれまでの和解金額を大幅に超えるものであった。画期的な和解で、被害者の一人は「和解を喜んでいる。目を将来に向けて平和的に共存したい」と述べた。この和解は戦後補償運動を大きく進めるものであるが、それにとどまらない。日中の緊張緩和に貢献し、安全保障をめぐる環境を改善するものだ。強制労働被害者と日中市民の共同の努力が日中の平和を確かなものにしていく。このような取り組みをさらに広げていくことが問われている。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク事務局長 矢野秀喜)

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