2016年12月16日発行 1457号

【Q&A 年金カット法案 際限なき年金削減で貧困拡大 参院での強行をとめよう】

 安倍政権・自公与党は11月29日、際限なき削減ルールを持ち込む年金カット法案を衆院本会議で強行可決。高齢者ばかりか将来世代にわたって貧困を深刻化させる大収奪法案を「年金確保法案」と称し、参院も強行通過をもくろむ。安倍・自公の大うそを暴く。

Q1 年金カット法案の問題は何か

 自民党は年金法案の国会審議に向けて「年金改革法案に関するQ&A」などを発表した。その説明によれば、「世代間の公平を確保し、将来世代の基礎年金の水準を確保する観点」から年金額改定のルールを見直す。「物価と賃金が上がっている状況では、年金額が下がることはありません」と言い訳≠烽オている。

 これまでのルールでは、物価と賃金が上がっている場合、上がり方の低い方に合わせるとされたが、少なくとも年金額が下がることはなかった。物価が上がって賃金が下がった場合も、年金額は据え置かれてきた。ところが、新しいルールについて自民党は明言を避ける。あらゆる場合に年金を削減することをごまかすために、2019年10月から低年金・低所得者へ新たに「福祉的な給付」(最大6万円)をスタートさせることばかりを強調する。

 今回のルール変更=大改悪には二つの仕組みがある。

 一つは、物価が上がっても賃金が下がれば賃金に合わせて年金額を下げ、物価も賃金も下がった時は下げ幅の大きい方に合わせて年金額を下げることだ。これは2021年から実施を予定している。もう一つは、支給抑制・削減を前提とする「マクロ経済スライド」(注)のさらなる改悪である。マクロ経済スライドを実施できなかった場合、削減分を繰り越させて事後に実施できるようにする。ルールを二重にすることによってどのような場合でも削減を継続させようとするものだ。

 賃金が上がらずデフレの続く状況は何ら改善されず、アベノミクスで格差と貧困はますます拡大している。安倍政権は失敗を年金制度にもつけ回ししようとしている。

 「福祉的な給付」については、消費税10%増税と引き換えに行われる。年金額削減と消費税増税を強行するためのまやかし策でしかない。

Q2 安倍政権はなぜ法案成立を急ぐのか

 「こんな議論を何時間やっても同じ」と安倍首相が答弁した直後、衆院厚生労働委員会で採決が強行された。きわめて短時間の質疑で、しかもメディアが問題をほとんど指摘しない中でも、世論調査で反対は約6割となっている。質疑を行えば行うほど市民に痛みを強いる内容が知れ渡る。それを恐れて安倍政権は強行採決に踏み切った。介護、医療と続く社会保障解体の大きな一歩として強引な会期延長で早期成立を狙っている。

 批判の広がりに対しては、現役世代と年金受給者の分断を図る。自民党の説明をさらに見よう。現役世代は「過去10年間のデフレ下で、賃金が下がったため、将来受け取る基礎年金が1割程度低下の見込み」であるのに対し、年金受給者は「年金額が賃金に連動しなかったため、基礎年金は本来の水準よりも1割程度上昇」とする。現役世代は「賃金が下がり、将来受け取る年金も低くなるという二重の苦しみ=vにあるとして、年金受給世代への妬(ねた)みをあおり対立させるのだ。

 マクロ経済スライドが2004年に導入されたが、デフレ状態が続いたために2015年度だけしか実施されていない。その結果、現役世代の収入に対する年金額の割合(所得代替率)が「高止まりしている」とし、現在の年金受給者は「もらいすぎ」と攻撃する。この数字を「是正」するとして、高齢者が暮らしていけない低年金の実態を一切見ることもなく、賃金・物価スライドの新ルールを作り、マクロ経済スライドを改悪。際限なく年金を削減しようとしているのである。

Q3 年金制度を拡充するために何が必要か

 安倍政権は「将来の年金確保法案」と言うが、本当か。

 厚労省は、新ルールで仮に過去の2005年から10年間について計算をすれば「今の年金額が3%減」と試算結果を出した。ところが民進党の試算では、5・2%減、国民年金で年間約4万円の減額、厚生年金の標準モデルの場合は年間約14万2千円の減額となっている。厚労省は試算のやり直し要求を拒否しており、政権に有利になるよう数値を加工している可能性が高い。

 所得代替率は、50%以上を確保するよう法律で決められている。政府は、2014年度の「所得代替率62・7%」をやり玉に削減ルール押し付けを狙うが、そもそも日本の所得代替率の計算方法が国際基準とは異なるため調整して再計算すると35・6%となる(10/27朝日)。国際水準に照らしても、決して「もらいすぎ」などではない。

 高齢世帯の貧困をいっそう深刻化する年金改悪ではなく、生存権を保障する年金制度にしなければならない。その柱は、すべての人が公費負担による基礎年金で最低生活を維持できる制度の創設だ。現行の基礎年金額では困難であり、さらに無年金の人が少なからずいる。この現状をなくすために、基礎年金で最低生活を保障すべきである。

 加えて、巨額の損失を生じさせるギャンブル的運用をやめ適切な運用を行うことだ。また、財源確保のために積立金元本を計画的に取り崩すことの検討も必要だ。年金積立金を99%の市民の手に取り戻さなければならない。

(注)厚労省は「年金額の伸びを調整することで、保険料収入などの財源の範囲内で給付」と説明する。調整とは賃金や物価が上昇するほどには増やさないこと。要は抑制・削減を前提とする制度だ。



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