2016年12月16日発行 1457号

【未来への責任(214)「土人」発言生む植民地主義イデオロギー】

 幕末から明治にかけて日本は、北海道に開拓使を設けアイヌモシリの内国化を図り、琉球処分によって沖縄を「併合」し、国民国家としての基礎を形作った。そして遅れをとった「帝国主義国家」として朝鮮半島の植民地化を足がかりに必死に「植民地分割」競争に参入した。これを支える国民統合のイデオロギーが、「脱亜入欧」=アジア(朝鮮・中国)蔑視の差別排外主義だった。アイヌや沖縄には「大日本帝国」への同化・服従を強制した。その象徴的な事件が「人類館事件」。1903年、植民地主義イデオロギーを人びとの意識に埋め込むため「人類学の研究」と称し第5回内国勧業博覧会で「琉球人」、アイヌ、「生蕃」(台湾先住民)、朝鮮人、中国人らを文明対野蛮という「構図」で描き出して展示・見世物にした。

 時を経て2013年1月、当時那覇市長の翁長知事が代表を務めた「オスプレイ配備に反対する県民大会実行委員会」は、「建白書」を安倍首相に手渡したが、前日に日比谷公園で開かれた集会・請願デモでは、田母神俊雄や在特会(在日特権を許さない市民の会)らが「非国民!」「売国奴!」「ゴキブリ!」「スパイ!」「日本から出て行け!」といった罵声を浴びせた。「ヘイトスピーチ」むき出しの差別に沖縄県選出の糸数慶子参議院議員は「『オール沖縄』による静かな訴えのデモでしたが泣きたい思いで行進しました。ひどい差別です。私たちが復帰した日本とは何だったのかと、悔しく思いました」と述べた。

 そして「嫌韓」「嫌中」という差別排外主義のターゲットに沖縄も組み込まれている状況を象徴する「事件」が起こった。今年3月、琉球新報記者が東京への転勤に際し「琉球新報の人間には貸したくない」と大家から言われ、希望したアパートへの入居を拒否された。記者は「国家主義や排外主義は、命や人権を重んじる世界の潮流と逆行している」と批判したが、かつて「琉球人、朝鮮人お断り」の貼り紙を掲げていた時代を彷彿とさせる事態だった。

 今年10月、高江に派遣された大阪府警の機動隊員が「クソ、どこつかんどるんじゃボケ、土人」「シナ人」などとヘリパッド工事強行に反対する市民を罵倒した。大阪府の松井知事は機動隊員をねぎらう発言を行い、追いうちをかけるように鶴保沖縄担当大臣は「土人と言うことが差別だとは断定できない」と述べ、安倍政権は「鶴保氏が謝罪し、または答弁を訂正する必要はない」との政府答弁を正式決定した。広辞苑には土人の語義として「未開の土着人。軽侮の意味を含んで使われた」とはっきり書かれている。安倍政権の露骨な「国策」としての沖縄差別を絶対に許してはならない。本土の「弾除け」として沖縄に新基地建設を強いる根底には沖縄に対する構造的な差別=「構造的暴力」としての植民地主義がある。沖縄へのバッシングとヘイトスピーチは底で繋がっている。差別と偏見に基づく排外主義は「敵」をつくることで成り立つ。そして差別排外主義の向こうに控えているのが戦争である。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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