2016年12月16日発行 1457号

【どくしょ室/給食費未納 子どもの貧困と食生活格差/ 鳫咲子著 光文社新書 本体740円+税/給食の完全無償化を訴える】

 給食費の未納は保護者のモラルの問題とする言質がマスコミやネットを通じて流布されている。

 2015年、埼玉県北本市は給食費未納を続けている家庭の子どもに対して給食を提供しないと決定した。決定の背景には、未納者は支払い能力があるにもかかわらず未納を続けているとの判断がある。経済的に苦しい家庭は生活保護や就学援助で補助を受けており、未納にはならないからというのだ。

 筆者はこの判断を短絡的と批判する。「援助申請をできない事情を抱える保護者もいる。滞納を続ける家庭は子どもが育つ環境として何らかのリスクがある可能性がある。学校や行政は懲罰的な対応ではなく、滞納を福祉による支援が必要なシグナルととらえる必要がある」と主張し滞納家庭の実情に迫る。

 生活保護や就学援助の水準以上の所得がある家庭でも、多重債務を抱え、収入の多くを返済に充てている場合がある。ネグレクト(養育放棄)が原因の場合もある。経済的困窮でも生活保護や就学援助の制度を知らなかった保護者もいる。情報の貧困が未納を生み出しているといえる。

 どの場合も、給食費未納は子どもの貧困のシグナルであり、家庭や子どもに対する公的支援が必要だ。にもかかわらず厳罰主義で子どもの給食を停止することは「行政による虐待」と呼ぶべきであり、子どもの権利条約に違反する疑いもあると筆者は断じている。

 給食は、欠食児童の救済として明治時代から開始された歴史がある。特に戦前の恐慌や炭鉱閉山など、大量失業時における子どもの生活を支える役割は重要であった。

 しかし、戦後のベビーブームで大都市部は校舎増築など施設整備に追われ、特に中学校で給食実施率が低下した。この傾向は現在も続いている。給食未実施の中学校では、朝食を食べず、休み時間に空腹を紛らすために保健室に氷をもらいに来る子どもがいるという。

 また、選択制のデリバリー方式給食弁当では、貧困家庭は経済的援助のない注文弁当を選択しない実態も明らかになっている。

 高知には朝食を出している学校がある。校長は「大事なのは、誰もが楽しく朝ごはんを食べられる場を無理なくつくるかだ」と言う。「子ども食堂」の取り組みも活発になっている。九州の子ども食堂の交流会では「子ども食堂は貧困のイメージが強いが、どんな子どもでも来ていい居場所にしている」と食を必要とする子どもが気兼ねなく集える場所づくりの報告がある。

 すでに韓国では2000年代以降、小中学生全員の給食を無料とする自治体が広がり、2014年時点で小学校の94%、中学校の76%が無料だ。

 本書は、子どもセーフティーネットとしての給食の役割を認識し、完全無償化すべきと訴える。 (N)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS