2016年12月23日発行 1458号

【もんじゅに懲りず新高速炉/核燃サイクルに執着する安倍政権/独自核武装カードを手放さず】

 政府は、廃炉を検討している高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)に代わり、新しい高速炉を開発する方針を明らかにした。高速炉の存在を前提とした核燃料サイクル計画を引き続き推進していくということだ。巨額の税金を空費した失敗に懲りず、核燃料サイクルに固執するのはどうしてなのか。その背景には独自核武装の野望がある。

失敗の反省もなく

 核燃料サイクルとは、原発の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、核燃料として再利用することをいう。その中核施設が高速増殖炉だ。高速増殖炉はウランとプルトニウムの混合酸化物燃料を使うのだが、理論的には消費した以上のプルトニウムをつくり出すことができる。よって「夢の原子炉」と宣伝されてきた。

 しかし、高速増殖炉は水分に触れると発火する液体ナトリウムを冷却材に使うなど扱いが難しい。そのうえ通常の軽水炉より核暴走(核分裂の制御不能)の危険性が高い。経済的にも採算がとれないため、米国、英国、ドイツは開発計画から撤退した。

 日本のもんじゅ(研究段階の原型炉)は臨界に達した翌年の1995年にナトリウム事故を起こして運転を停止。その後もトラブル続きで、22年間で250日しか運転できていない。この間、投じた国費は約1兆2千億円。動かなくても一日あたり5千万円もの維持費がかかる。今年9月、ついに政府は「廃炉を含めた抜本的見直し」を決定した。

 ところが、政府は新たな高速炉開発に着手する方針を打ち出した。11月30日に提示された骨子案は核燃料サイクル政策の推進を再確認し、「世界最高レベルの高速炉の開発、実用化」を国家目標に掲げた。もんじゅについては廃炉に向けた解体作業と並行して、約10年間は「安全技術の研究」に利用するという。

 もんじゅはほとんど運転できなかったので、技術的な確実性を検証するという目的を果たせていない。それなのに次の段階の実証炉を開発するなんて無謀極まりない。新たな「カネ食い虫」となることは目に見えている。

核兵器保有の衝動

 技術的にも経済的にも無理がある高速炉開発・核燃料サイクルに安倍政権はなぜ執着するのだろうか。

 一つには原発再稼働の条件整備である。原発を動かせば使用済み核燃料、すなわち危険な「核のゴミ」が際限なく増え続ける。原発政策の根本矛盾だ。政府はこれをごまかすために、使用済み核燃料は再利用すると言い訳してきた。だから高速炉開発の旗を降ろせないというわけだ。

 もう一つ、ウラの理由がある。プルトニウムは核兵器の材料だが、日本は日米原子力協定により、核兵器を製造しないことを条件に原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出すことを認められている。日本が保有するプルトニウムは現在48トン。原爆約6千発分に相当する量だ。

 再処理を続けているのに高速炉の開発をやめたとなれば、その燃料にプルトニウムを使うという大義名分が失われる。これでは2018年7月に期限を迎える日米原子力協定の改定に支障をきたしかねないと、多くのメディアは解説する(12/1朝日など)。

 そうだろうか。核武装の懸念を払拭することが目的なら、核燃サイクル政策を放棄すればいいだけの話だ。それをしないということは、プルトニウム抽出の特権、技術を捨てる気はないということである。これでわかっただろう。安倍政権には核兵器保有の衝動があるのである。

原発と原爆は一体

 外務省が1969年に作成した内部資料「わが国の外交政策大綱」には、以下のようなくだりがある。「当面核兵器は保有しない政策はとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャル(能力)は常に保持するとともに、これに対する掣肘(せいちゅう/周囲からの干渉の意)を受けないよう配慮する」

 最近では、自民党の石破茂(元防衛相)がこんな発言をしている。「原発の技術があることで、数か月から1年といった比較的短期間で核を持ちうる。加えて我が国は世界有数のロケット技術を持っている。この2つを組み合わせれば、かなり短い期間で効果的な核保有を現実化できる」(『SAPIO』2011年10月5日号)

 これらの発言に示されるように、原発推進という国策には軍事利用=核兵器開発というウラの目的がある。安倍政権が核燃料サイクル政策の延命に必死になっているのは、独自核武装の選択肢を失いたくないからなのだ。

   *  *  *

 安倍首相は、かつて「小型であれば原爆保有は憲法上問題ない」と述べ(2002年6月)、物議を醸したことのある核武装論者だ。そして今年10月、「核兵器禁止条約」に向けた交渉を2017年にスタートさせる国連総会の決議に日本は反対票を投じた。

 戦争国家づくりに突き進む安倍政権が将来の核武装をにらんでいることは明らかだ。核燃料サイクル延命の背景にある危険な狙いを見落としてはならない。    (M)

高速増殖炉と高速炉

 政府が新たに開発するとしているのは高速炉。高速増殖炉と違い、燃料に使ったプルトニウムを増殖する機能はないが、98パーセントが核分裂性という核兵器に適したプルトニウムを作り出すことができる。つまり、高速炉開発の目的は「核のゴミを少しでも減らすこと」ではなく、「超優秀な核兵器材料を手に入れること」(小出裕章・元京大助教)にある。



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