2017年01月06日・13日発行 1460号

【でたらめな事故処理費用試算 東電救済し国民にツケ回す】

 経産省は、福島原発事故に伴う事故処理費用を21・5兆円とする新たな試算を公表した。従来試算の11兆円の約2倍だ。この額を原発のない新電力を含め、国民負担とするでたらめだらけの方針である。

再稼働前提の東電救済

 試算は12月9日、「有識者」らで構成する「東京電力改革・1F(福島第一原発)問題委員会」(東電委員会)で示され、20日に「了承」された。内訳は廃炉費用が8兆円(従来2兆円)、賠償が7・9兆円(同5・4兆円)、除染費用が4兆円(同2・5兆円)、中間貯蔵施設が1・6兆円(同1・1兆円)で、それぞれ大幅に膨らんだ。特に廃炉費は4倍だ。

 経産省は、この費用のうち3兆円を電力自由化によって売電事業に参入した新電力各社に負担させる。具体的には「託送料」(電力会社の送電線を借りて送電する際の電線使用料)に上乗せする。同時に、政府は、帰還困難区域の除染費用についても東電負担の従来方針を改め、国費除染とすることを打ち出した。

 この方針の最大の問題点は国民不在の東電救済策であることだ。原発は東電の資産であり、それが原因で事故が起きた以上、廃炉は東電が行うべきだ。賠償も東電が引き起こした事故である以上東電が支払うべきで、除染も汚染者負担の原則に基づき東電に実施させなければならない。

 これらの原則を投げ捨て、東電を倒産させないことで、本来責任を取るべき東電はもちろん、株主や融資している銀行を一方的に救済し、そのツケを国民に回すものだ。

 東電委員会は、賠償に充てる費用7・9兆円のうち、2・4兆円を「日本で原発が始まった1966年から電気料金に上乗せして積み立てておくべきだった費用」(過去分)として託送料に上乗せし、新電力にも負担させる方針だが、これも筋違いのでたらめだ。「50年前に販売した商品の値段が誤っていたので、今からさかのぼっていただきます」などという論理がどの社会で通用するのか。

 そもそも自由化以降に参入した新電力各社は過去に原発の「恩恵」など受けていない。恩恵を受けたのは電力会社だ。しかも今回の方針では、過去も現在も原発がないという理由で沖縄電力をこれらの費用負担から外している。電力会社の中にさえ費用負担しない会社があるのに、原発と無関係の新電力に負担を強いるとは、厚かましいにも程がある。新電力にとっては全く根拠のない費用負担であり、国民の財産権の保護を定めた憲法29条に違反する恐れもある。

 でたらめだらけの方針がなぜ出てきたのか。東電委員会委員の顔ぶれから答えが見える。川村隆は原発メーカー・日立の名誉会長。白石興二郎は、メディアでありながら自ら原発導入の旗を振った読売新聞の会長。原田明夫は東電株の半数以上を持つ「大株主」原子力損害賠償・廃炉等支援機構運営委員長。オブザーバーとして廣瀬直己・東電ホールディングス社長らがずらりと並ぶ。他にも経済同友会代表幹事、日本商工会議所会頭ら経済団体代表が委員を務める。その実態はまさに「利益関係者委員会」だ。

原発ゼロの会抗議談話

 超党派の国会議員で作る原発ゼロの会(共同代表・河野太郎<自民>、近藤昭一<民進>両議員)は12月7日付で抗議談話を発表した。「国民的議論はもちろん国会の関与も一切ないままに原則を歪めた国民負担増大案がまとめられるのであれば言語道断」「託送料上乗せ案や過去分には根拠がない」として反対を表明している。

 自民党議員ですら反対するような原発処理費用の無原則の国民負担、ツケ回しを許してはならない。

 
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