2017年01月20日 1461号

【安倍首相の真珠湾訪問/謝罪も反省もなく軍事同盟を誇示/「戦後」幕引きの政治ショー】

 「和解の力」にもとづく日米同盟の絆は強調しても、謝罪や歴史認識には触れない。アジア諸国に対する加害責任は完全スルー。安倍晋三首相の真珠湾訪問(12/28)は「戦後の終わり」を演出する政治ショーであり、「日本はもう過去に縛られない」という意思表示であった。稲田朋美防衛相の靖国神社参拝がその証拠である。

ポイントは「謝罪なし」

 「これで『戦後』が完全に終わったと示したい」。真珠湾訪問を発表した12月5日、安倍首相はこう語っていたという(12/6朝日)。昨年8月に「戦後70年談話」を発表した際には「謝罪外交に終止符を打ちたい」と周囲にもらしていた(12/29産経)。こうした「戦後の幕引き」策動の総仕上げが今回のパフォーマンスだったというわけだ。

 実際、安倍は真珠湾での演説において、「寛容の心がもたらした和解の力」が敵国だった日米を「希望の同盟」にしたと強調する一方、過去の反省や謝罪は口にしなかった。御用メディアはこれを「日米の戦後処理の歴史的な集大成」(12/29読売社説)と絶賛。報道でも、式典に招かれた元米兵が「安倍首相は謝罪する必要はない」と語ったことをクローズアップした。

 こうした「日米和解」劇の効用を安倍の太鼓持ちで有名な阿比留瑠比(あびるるい)(産経新聞論説委員)は次のように解説する。「戦後70年以上がたっても過去ばかりに目を向け、すぐに歴史問題を振りかざしては優位に立とうとする中国や韓国に、寛容さの価値への理解を迫るものだ」(12/29産経)。

 同じことを改憲パートナーの橋下徹(前大阪市長)も述べている。「安倍首相がアメリカとの間でついに謝罪抜きの和解を完成させた。これは中国・韓国からの謝罪要求を撥(は)ねることにも使える」(12/28のツイート)。米国から「過去の戦争について謝罪は不要」という言質を取りつけ、中韓の「歴史カード」を無力化した、つまり「安倍首相の大勝利」というわけだ。

本音が出た靖国参拝

 オバマは原爆投下を謝罪しなかった。安倍も真珠湾攻撃を謝罪しなかった。日米両国の首脳が過去の戦争の謝罪を求めないことをお互いに確認した。だから「戦後」は終わった。日本はもう過去に縛られることはない−−。

 これは安倍応援団の希望的観測ではない。安倍とその取り巻き連中は本気でこう考えている。このことを如実に示したのが、稲田防衛相の靖国神社参拝だ。真珠湾訪問に同行した稲田は、帰国した翌日(12/29)の朝に参拝したのだが、安倍の反応は「ノーコメント」。知っていて容認したということだ。

 参拝後、記者団に「中国や韓国の反発も予想されるが」と問われた稲田は、安倍・オバマの真珠湾演説に触れ、強弁した。「祖国のために命をささげた方々に対し、感謝と敬意と追悼の意を表することは、どの国でも理解して頂けると考えている」。真珠湾での「日米和解」劇を歴史問題の封じ込めに早速活用していることがわかる。

 もっとも、それぞれの国が犯した戦争犯罪の謝罪も反省もない手打ち式を日米の首脳が行ったところで、歴史問題が消えてなくなるはずもない。アジア・太平洋戦争はその名が示すように、日米間だけの戦争ではない。朝鮮・台湾の植民地支配、中国や東南アジア諸国への侵略に日本は加害責任を負っているのである。自らの過ちを認めようとしない連中に「戦後の終わり」を口にする資格はない。

アジア・沖縄の批判

 安倍の真珠湾パフォーマンスに対し、中国や韓国は冷淡な反応を示している。韓国では安倍演説のまさにその日に、「慰安婦」問題に関する日韓合意の撤回を求める行動が各地で行われた。一方的な「戦後の幕引き」策動は拒絶されているということだ。

 日本国内からも疑問や批判の声が相次いでいる。日本原水爆被害者団体協議会の田中煕巳(てるみ)事務局長は「私たちが望んでいるのは戦争をしないということで、アメリカには持っている核兵器をなくす意志と行動を示してほしいと求めてきたが、それはできていないため、『不戦の誓い』は空虚に感じた」(12/28NHKニュース)と語った。

 米軍基地被害に苦しむ沖縄の反応はどうか。12月29日の琉球新報社説は、安倍が「米国のリーダーシップの下、自由世界の一員として、私たちは平和と繁栄を享受することができた」と演説したことに注目。1952年のサンフランシスコ講和条約によって日本から切り離され、復帰後も安保の負担を強いられた沖縄は「私たち」に含まれていないと批判した。

 安倍は真珠湾演説で沖縄の基地問題にまったく触れなかったが、それに先立つ日米首脳会談では辺野古新基地建設を「着実に進める」ことを約束している。その姿勢からは「寛容さも沖縄県と和解する意欲も感じられない」(同・琉球新報社説)。

 そもそも、安倍の演説は言行不一致の極致である。戦後日本が「不戦の誓い」を堅持してきたと強調し、「平和国家としての歩み」をこれからも貫くことを誓うと言いながら、実際には戦争法(安保法制)を強引に成立させるなどグローバル派兵路線を邁進している。戦争被害者をこれほど愚弄する話はない。

 「戦後の終わり」を内外に印象づけたい日本側の提案を、日米軍事同盟の拡大・強化を図る観点から米国政府が了承した−−これが戦争屋どうしの打算にもとづく政治ショーでなくて何であろう。民衆不在の茶番劇にだまされてはならない。

     (M)



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